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逮捕されること、先行きへの不安。

Вторник, 25 Июня 2024 г. 12:34 + в цитатник

逮捕されること、先行きへの不安。

身体を通してそれを分かち合っても、良いのではないだろうか。

ひゐろの心は、揺れていた。

 

二日後には、元旦になる。

ただ年が明けてしまったら、下宿先に伺うことなどない気がしていた。Botox瘦面

しかも、その間に斎藤が捕まってしまう可能性もあるだろう。

 

行くなら今日だ、と。

ひゐろは取るものもとりあえず、の自宅を出て市電に乗った。

帰省した人が多いのか、市電に乗る人は非常に少なかった。

 

斎藤の下宿先は、根津神社北門の坂の近くにあった。坂の並びにいくつか大きな家屋が並んでおり、ほぼ真ん中に位置するところにあった。

家屋の裏手にはの木が数本あるが、みな落葉しており、枝打ちも終わっていた。

 

「佐々木」という表札の側にはすでに二つの門松が飾られ、国旗も立てられていた。

 

ここだわとひゐろは思い、門戸を開けて中へ入った。

 

「……ごめんください!」

大きな声で、中の人を呼んだ。

 

するとそこから、ひゐろと同じ年頃だと思しき女中が出てきた。

割烹着を着て、頰被りをしていたが、非常にきれいな娘であった。

 

「こちらの下宿に、斎藤英太郎さんという方がいらっしゃいませんか?」

 

「失礼ですが、どなた様でしょうか」

年末の忙しい時期に、何の用事だという面持ちで女中はそう答えた。

 

「……斎藤英太郎さんの知り合いです。斎藤さんにお逢いすれば、わかるはずですから」

女中はひゐろをし、こう言った。

 

「そうですか。それでは、お通しします。こちらへどうぞ」

 

玄関から、離れを通される。離れの一棟が、下宿のようだ。

離れ玄関の先には長い廊下があり、廊下の右側に三つの引き戸がついていた。

一番奥の部屋が、斎藤の部屋のようだ。「失礼いたします。斎藤さんにお客様がおいでです」

 

「……」

 

「斎藤さん、お客様です」

何の返答もなかった。

 

「……失礼します」

女中が引き戸を開けると、そこはもぬけの殻となっていた。……斎藤さんがいない

ひゐろは、に取られてしまった。

 

「今朝方はいらっしゃったのですが、一体どうしたのでしょう?」

部屋の奥には、古びた正座机があった。そこに、一通の封書が置いてある。

 

―――“ひゐろ様”

 

「私宛の手紙のようです。こちらを読んで、おいたします」

ひゐろは即座にそれを開封し、を広げて読んだ。

 

“またお店に伺います。ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。よろしくお願いします 斎藤”

 

例の角ばった文字がある。か三行の簡素な手紙であった。

 

この手紙は、どのように解釈すればいいのだろうか。

文字通りに受け取ってもいいのだろうか。

 

まさか警察に出頭してしまい、もう何年も会えない。

だからこその「いつかまたお店に伺います」だとか……。

ひゐろは、その意図が全く理解できなかった。

 

しばらくすると、その文面が腹立たしくも思えてきた。

下宿先を伝えたくせに、私を待たずに去っていくとはどういうなのか。

心も身体もすべてを受け入れるという覚悟で出向いたのに、なぜ私を惑わせるのか、と。

 

ひゐろはすぐに手紙をたたみ、封筒に入れた。

「それでは、失礼します」

女中に頭を下げ、斎藤の下宿先を去った。市電に揺られながら、ひゐろは今年一年を振り返った。

 

曲がりなりにも職業婦人となり、オートガールという職を得た。

やがて飯田孟という男を愛し、不慮の事故で彼を失ってしまう。

そして初めて自分の力で住まいを得、暮らしている……。

 

しばらく、市電の曇った車窓を見つめていた。

すると、母の民子のことが浮かんできた。

 

―――「住まいが決まったら、帰ってきなさい」

 

母にはそう言われたが、いまだに本郷の実家には一度も帰っていない。


 

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