放心状態になった三津は子供た |
放心状態になった三津は子供たちのはしゃぐ声を遠くに聞きながら,焦点の合わない目を泳がせる。 「それでね,私はある人に頼まれてお三津ちゃんが副長さんの事をどう思ってるか確かめに来てん。」 この短時間でげっそりとした三津をくすくす笑って,今度は頬をつついて遊び始めた。 「ある人?」 もう何を聞いても驚かない。 呼吸を整えて,上目で彼女を見れば,妖しげに口角を上げて二回頷いた。 「そう,お三津ちゃんもよく知ってる人。分かる?」 当ててみてと言われるが,三津の思考は完全に停止する一歩手前。 そもそも彼女と自分の間に共通の知人なんている訳がない。 一応答えを考えてみるけど見当もつかない。 彼女は彼女で答えを言いたくてうずうずしてる様にも見える。 「降参です…。」 それを聞いて彼女は三津の耳に顔を寄せた。 女同士でもべっぴんさんの顔が間近に来て変な緊張感が三津を包む。 しゃんと背筋を伸ばして耳を澄ますと三津の予想だにしない名前が囁かれた。 「桂はんに頼まれたんよ。」 『桂はん…?』 三津の思考は完全に停止した。 頭の中がぐちゃぐちゃだ。 色んな物が詰まった葛籠をひっくり返されたみたい。 何から手に取って,どう整理すればいいのか分からない。 久しぶりに聞いた名前。 名前を聞いただけなのに,三津の心臓は激しく脈打つ。 「土方歳三が女を連れ込んでるって情報を聞いてん。 その女の子の特徴と名前を聞いてみれば,お三津ちゃんらしいって知った。 そしたらあの人,私に確かめて来いって言ったのよ。」 それまでにこやかだった彼女は拗ねた仕草を見せた。 「…お姉さんって何者ですか?」 全てを見透かしたような目で自分を見ている。 Botox瘦面 直視出来なかった大きな瞳から目を反らせない。 心臓の音が煩い――…。今更だけど,名前も知らない彼女。 ただのべっぴんさんではないようで,今まで見惚れていた笑みが一段と妖しく見える。 「私?私はただの芸妓やし。 幾松って言って分かってもらえる?」 幾松は耳にタコが出来るぐらい,桂から三津の話を聞いているけど,三津に自分の事を話しているなんて思えない。 『桂の女よって言ってやろうかしら。』 それぐらいの嘘は可愛いもんでしょ。 頭を抱えて唸り声を上げる三津を眺めていると,はっと見開いた目と目が合った。 「あーっ!知ってる!桂さんの馴染みの芸妓さん!」 三津は気持ちのいいぐらいはっきりと思い出した。 大声を上げ,指を差して,黒々とした目は瞬き一つせず幾松を見つめた。 「声大きいし。聞こえてたらどうするんよ。 私からしたらここは敵陣なんやから。」 幾松は右手で三津の頬をぎゅっと摘んで黙らせた。 でも知ってくれてるとは意外だった。 『私の事を吹き込むのは吉田さんぐらいやろな。』 そうと予想がついていながら,誰から聞いたの?と尋ねてみる。 もし桂の口から聞いたのなら,ちょっと嬉しいかも。 「吉田さんから聞きました。」 予想通りの答えに溜め息が出た。やんなっちゃう。 桂の顔を頭に浮かべて,言ってやろうと思う嫌味を並べていった。 『うわ…本物なんや…。』 三津は見開いた目で幾松の姿を凝視した。 上から下までじっくりと。 幾松には会う事もなく,想像の中の人で終わるはずだった。 きっと桂とお似合いの人なんだろうと思いながら。 今,目の前に居る幾松は三津が思った以上の人。 間違いなく桂にお似合いな大人の女性。 そんな彼女が桂に頼まれて自分を訪ねて来たなんて…。 からかわれてるとしか思えない。 「桂さんは何で幾松さんにこんな事させてるんですか? しかも桂さんって長州に帰ったんじゃ?」 よく考えればおかしな話じゃないか。 桂の馴染みの芸妓が,何で自分の気持ちを確かめに来てるんだろ。 『しかも何で宗太郎を連れてるんやろ。まさか攫って来はった?』 三津はまた混乱の中にどっぷり足を突っ込んだ。 あぁでもない,こうでもないと一人で狼狽える。 『相変わらず面白い反応する子やわ。』 桂はずっと京に居ると伝えると,顎が外れるんじゃないかって言うぐらい,三津の小さな口が全開になった。
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