「動けるようになったらまた薬貰いに行っとけ。 |
「動けるようになったらまた薬貰いに行っとけ。」
「……殴らないんですか?」
「何だよ殴られたいのか? 顯赫植髮
煩いぐらい元気になったらな。そん時はとびきり痛いヤツお見舞いしてやるよ。お前の脳天に。」
握り締めた拳をぐりぐり押し当ててから,さっさと部屋を出た。
三津は呆然としながら,あわや拳骨が直撃するかもしれなかった場所を押さえた。
いつもなら豪快な拳骨が直撃するのに。
体調は良くなりかけてるのに調子が狂うじゃないか。
『変な土方さん…。何か変なもんでも食べはったんかな。』
その夜,斎藤の部屋で静かに快適に過ごしていると何だか騒がしくなった。
『不審者でも捕まえたんかな。今日の夜番は誰やったっけ?
捕まったの,桂さんやない…よね?』
うつらうつらしていた意識がはっきりした。
不安に駆られて目をきょろきょろさせ,騒ぎの真相を確かめるべく体を起こした。
側にあった羽織りを手繰り寄せて肩に掛けると声のする方へ向かった。
「うるせぇ!こんぐらいでいちいち取り乱すな!」
『あ,土方さんや。』
聞き慣れた怒声に吸い寄せられて行くと井戸にたどり着いた。そこには夜番の隊士たちが群がり,右往左往している。
「土方さん?何かあったんですか?」
背伸びをして土方の姿を垣間見る。
井戸水で頻りに何かを洗い流してるのだけ分かった。
「暗がりから突然斬りつけられて…。」
「えっ…。」
どくんと嫌な脈を打つ。
息苦しさを感じながら隊士たちを掻き分けた。
土方の二の腕からは血が流れていた。
「やっ…。嫌ですよ!?死んじゃうなんて!!」
そんなの嫌だ。勢いよく土方に抱きついた。
肩に掛けた羽織りが足元に落ちたのも気に留めず。今朝までピンピンしてた人が。
今まで怪我なんてしかなった人なのに。
そんな人間だからこそ,もしも…の時が怖い。
「お前!そんな格好で出て来てんじゃねぇよ馬鹿…。」
「馬鹿って…!こっちは本気で心配してるのに!」
格好なんてどうでもいいじゃない。
鼻で笑った土方の胸を何度も叩いて,潤んだ目で下から睨む。
ここに来て何人もの手当てもしてきたから,生傷には慣れたと思ったのに,気が動転してしまった。
土方が血が滴る程の怪我をして帰って来た事なんてなかったから。
「これしきで死ぬ訳ないだろ。
お前こそやけに大胆じゃねぇか。
寝ぼけてんのか?それとも俺が恋しいのか?」
こんな時に何の冗談?
更に鋭く睨みつけてから,はっとした。
「何で裸なんですか!阿呆ちゃいます!?」
「俺は傷洗ってただけだろうが。お前が急に抱き付いて来たんだろ。
だから誘ってんのかって聞いてんだよ。」
『そんな目で睨みつけやがって。そそられるじゃねぇか。』
潤んだ瞳が挑戦的。
薄い寝間着を通して三津の体温がほんのり伝わる。
「起きてきたついでだ。手当てしてけ。」
恥じらいと,泣きそうになるのを堪えて言葉に詰まらせる三津の腰に腕を回した。
「止めて下さいよ!土方さんの助平!」
「歩くと傷に響いて痛いんだっつうの!
手厚く介抱しやがれ,小姓だろうが。」
落とした羽織りをふわりと被せる。
「おら,さっさと歩け。」
三津の挑戦的だった目は伏せられ,どこを見ればいいか分からずに視線がさ迷う。
『心配されるのも悪かねぇ。』
これしきの怪我で泣きそうなぐらい心配するなんて可愛いじゃないか。
三津の女らしさが妙に増したのは自分を男として意識しだしたからなのか?
「ちょっと!あんまり引っ付かないで下さい!
あー!廊下に血が落ちた!」
「ギャーギャーうるせぇ!」
思い過ごしだ…。
やっぱり三津に色気なんか微塵もなかった。
拳骨したいのを我慢して舌打ちだけに留めて素早く部屋に入った。
「…ったく。いちいち騒ぐな。寝てる奴らはいい迷惑だ。」
「だって…。本当に土方さん死んじゃったらどうしようかと思ったんですもん…。」
しゅんとしながらも,また潤んだ瞳で上目遣い。
口をへの字に曲げて泣くのを堪える姿がいじらしく思えた。
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