を膳に乗せた斎藤である。その姿を見るなり、胸の内に安堵が広がっていく。 ｢ええ……もう大丈夫です｣ 　斎藤は沖田の前に膳を置くと、暗い部屋に行灯を付けた。ぼんやりとしたそれを沖田は見つめる。 ｢……斎藤君は優しいですね。有難う御座います｣ 　額を流れる汗を拭い、困ったように微笑みを浮かべた。今は人の優しさが痛い。 　斎藤は沖田を横目で見やると、袖に手を入れた。そして中から小さな包みを取り出し、沖田の手元へと放る。 　沖田は怪訝に思いつつも、それを受け取る。 ｢八木さんの使用人も心配していた。……それをあんたに、だと。礼なら直接言ってくれ｣ ｢桜花さんが……？｣ 　包みを開けてみると、そこには小さくてつぶつぶとした菓子が何粒か転がっていた。 ｢あ………… ｣ ｢金平糖か｣ 　それを見た斎藤は薄く笑みを浮かべる。藥性子宮環副作用 沖田は幼い子どものように眉を顰め、泣きそうな表情をした。 ｢…………嫌だなぁ、見透かされているみたいで｣ 　それを一粒摘み、口の中に入れる。優しい甘さが口腔内に広がり、先程までの不快感が解れていくような気がした。 ｢飯もきちんと食え。沖田さんはか食が細すぎる。これから夏にもなるのだから、りになっては動けなくなるぞ｣ ｢ええ……、そうですね。ちゃんと食べます。そう言えば土方さんからの話というのはどうでしたか｣ 　斎藤に促され、沖田は箸を持つ。 ｢ああ。沖田さんは山崎君から直接聞いたとは思うが、四条河原町にある桝屋という店から浪士が頻繁に出入りしているとの情報があった。割り出せているのが──｣ ｢宮部鼎蔵、ですよね。私も今日見ました｣ ｢ああ。しかし桝屋は筑前福岡藩黒田家御用達と聞く。無闇矢鱈に御用改めとは行かぬ。故に、宮部鼎蔵の下僕を捕らえて吐かせることにした｣ 　斎藤は沖田の横に胡座をかいた。 ｢成程。鬼が出るか蛇が出るか……気になりますね｣ ｢…………ああ。先日も長州の浪士を捕まえたところだ。確実に何か企んでいるだろう。……もうすぐ祇園祭もある。街が騒がしくなるから、どさくさに紛れやすくもなるな｣ 　その通りに、祇園祭は歴史のある京で一番賑わう祭りだった。 　二度に分けて開催されており、それぞれで山鉾の巡行が行われている。また、その前々日から祭りが始まり、前々日を宵々山、前日を宵山といった。 　屋台も出され、大変賑わうことが予想される。その中で巡察や御用改めは極めて困難だ。 ｢きな臭い、嫌な世にどんどんなっていきますね｣ ｢……思想や立場が異なればこうなるのは致し方あるまい。我々は与えられた目の前の任務を遂行するまでだ｣ 　行灯の火が揺らめき、まるで陽炎のような儚さを感じさせる。少しずつ、時が動き出そうとしているのだ──　数日後、遣いで清水界隈へ来た桜花は、花の茶屋へと立ち寄った。暖簾を掻き分けて顔を覗かせると、直ぐにそれに気付いた花が笑みを浮かべる。 　あれから今のように遣いの帰りに寄ることもあり、砕けた話し方となっていた。まさに仲の良い歳頃の友達である。 ｢桜花はん、お越しやす｣ ｢…………お花ちゃん。その……お願いがあるのだけど、少し良いかな……｣ 　神妙な面持ちの桜花を見て、花はきょとんとするがすぐに真剣な表情になる。 ｢……へえ。奥へ入っとくれやす。今はお客さんもおりまへんよって｣ 　その促しで桜花は中へ入った。二人は長椅子に並んで座る。何処か思い詰めたような、けれども照れたような横顔を見て、花は小首を傾げた。 ｢……その、もうすぐ祇園祭があるよね｣ ｢ああ！そやなぁ。ぎょうさん屋台も出はるし、華やかで盛り上がるんえ。桜花はんは……覚えてはらないんやし、初めてになるやね｣