申しているにちがいありません」 　気配り上手の島田が、隣のテーブルから口をはさんできた。 　一瞬、島田がいい間違えたか、おれがきき間違えたかと思った。 　が、どうやら間違えではないらしい。 「あの野郎ーーーーーっ！」 　島田が茶々をいれたことで、副長がさらに炎上してしまった。 「八郎さん、ちがいます。まず、隠し子ってところが問題じゃないんです。まぁ副長にとっては問題でしょうけど。兎に角、いま伝えたいのはそんなささやかな盛った話じゃないんです」 「主計、ちょっとまちやがれ。盛った話じゃない？まったくの、ってか、まったくってわけでもないが……」 「それで？歳さんの隠し子がどうかしたと？いいじゃないですか。歳さんにとっては、やりやすいでしょう？勇さんや源さんがあんなことになって、新八さんや左之さんもいないんです。血のつながっている人が身近にいてくれたら、すこしは慰めになると思いますし、頼ることができて心強いと思いますがね」 　にこやかに語る伊庭をみながら、副長はどすんと椅子に座りなおした。 「ああ、まあな」 　意外なことではあるが、副長はぶっきらぼうではあるものの肯定した。 　隠し子というところは別にしても、あとの部分はそのとおりだと認めているからであろう。 「もういい。八郎にだけ否定したって、利三郎の馬鹿が全軍にひろめちまっていたらどうしようもできぬ。いちいちまわって否定したところで、かえって肯定しちまうようなもんだろう」 　子宮內膜增生飲食 たしかに、副長の推測どおりだと思う 　噂をきいた人たちの間を躍起になって否定してまわればまわるほど、というのはかえって疑い、噂話は誠だと信じてしまう。 「八郎、そのことは置いといてくれ。こいつらは、おれの隠し子じゃない。すくなくとも、おれがを孕ませてできた子ではない。そこではないのだ。こいつらと主計は、ずっとさきの時代からきたってことなんだ」 「ずっとさきの時代？」 　伊庭は、そこでやっと俊冬と俊春、それからおれをみた。　そのとき、相棒が立ち上がって副長の脚許にとことこあるいていった。お座りし、副長の軍服の袖を甘噛みする。 「おっと、すまん。兼定も、三人とともにやってきたんだ。八郎。おまえが左掌をうしなわずにすんだのは、のおかげだ」 「左掌を？」 　かれは、自分の左手首の傷をみつめた。 「八郎さん。あなたを傷つけたのは、鏡心一刀流の剣士で高橋藤五郎という小田原藩士ですよね？あなたは、本来ならかれに左手首の皮一枚を残す状態で斬られるはずだったのです。あなたは、左手首を斬り落とされかかっている状態で、高橋さんを下方から頸を一突きして殺すはずだった。高橋さんを殺した後、あなたはみずから皮一枚の状態の左手首を斬り落とすのです。おれたちのいる時代では、そのように伝えられています」 　かれは、おれの話を注意深くきいてくれている。 「いまの主計の話しは、おまえにとって突拍子のないもんだってことはわかっている。八郎、どうだ？馬鹿馬鹿しいっていうのなら、これ以上はやめておく」 　 　副長がかれのをのぞきこみながら、いってくれた。 　まったく信じる気にならないとか、荒唐無稽すぎて不愉快だというのなら、これからの話はしないほうがいい。 　これからする話こそが、かれにとってはこれまでよりよほどナンセンスで不快きわまりない内容になるであろうから。 　しかし、一方できいてほしいと願わずにはいられない。 「いえ……。そのおかげで、わたしはこの程度の傷ですんだのでしょう？」 「ああ。主計がぽちたまに頼んだのだ。おまえが、左からの攻撃に備えられるようにしてくれってな」 をはしらせつつ応じた。 　島田と蟻通は、隣のテーブルで静かにみまもっている。 　子どもらも、おとなしくこちらをみている。 「ならば、わたしは三人、いえ、 　伊庭の問いを受け、副長は俊冬と俊春とおれにをみながら、できるだけ要領よく語ることを心がける。 「いま、このことについてあなたに話をするのは……」 「わたしは、その助かる将兵のなかにいないからだ」 　蟻通同様、伊庭も勘がいい。 　かれは、あっさりそういってのけた。 　そのかれのをみつつ、もしかして、アプローチ方法を間違ってしまったかとヒヤリとした。 　副長のようにこの戦で死ぬ気満々なんじゃないのかと、いまさらながら思いいたった。 「す、すみません。こんな話、突拍子がない上に不愉快ですよね」 に、同様のことを告げたときとおなじことである。 　それこそ「北斗○拳」のように、「おまえ○もう死んでいる」宣言をされた直後に、頭とか体が爆発するわけではない。しかし、『おまえは半年以内に死ぬぞ』と断言されて、いい気持ちはしないだろう。 　体の不調で検査をしてもらったら、医師から「手遅れですね。余命半年です」と、診察室で告げられるのと似たようなものか。