「なんだと、おれがなんだって?」 |
「なんだと、おれがなんだって?」
「副長、なにもありませんってば。それで、おれになにをおっしゃりたいのです?心の準備はできました。どんときてください」
思わず、よまれたことをごまかしてしまった。
アフロ逆モヒカンのことは、朱古力瘤 かんがえないようにしなければ。
『この野郎』
副長の睨みつけられた。眉間の皺は、はっきりとそういっている。
それを、テヘペロった上でスルーしておく。
「これから蝦夷へ渡り、かの地で戦うことになるんだったな?」
副長の眉間に刻まれている険しい皺が、わずかにやわらいだ。
無意識のうちに、眉間のあたりをガン見してしまう。
いつも眉間に皺を刻みまくるからか、くっきりはっきり跡がついてしまっている。もはや、その縦皺の跡が消えてしまうことはないであろう。
それこそ、現代で皺をとりさる手術をするかシリコンとか埋めるかしないと、なくなってしまうことはないかもしれない。
まぁ、これも自業自得である。副長がもっと友好的かつ寛大な態度で周囲に接していれば、眉間に皺をよせるなんていう癖がつかなかったはずである。ということは、眉間に皺が刻みこまれることも当然なかったのだ。
どっちにしろ、皺がとれなくなろうがなるまいが、あとのパーツはムダに整っている。一つくらい欠点らしきものがあったとしても、なんら問題はないだろう。
世のなかには、欠点だらけのパーツしかないもたくさんいるんだし。
それをかんがえれば、イケメンって贅沢だよな。悩みなんてあるんだろうか。いやいや、悩みなんてもつこともまた、贅沢なことだ。
もしかして、ある意味ではおれのかんがえは偏見なのか?それとも、ただのやっかみなのか?
「いいかげんにしやがれ。なにゆえいちいち心のなかでかんがえやがる?かんがえるんなら、せめてもれないようにふたをしめておけ」
しまった。またしてもダダもれしている。
「なにをおっしゃるんです。これは、おれにあたえられている当然の権利なんです。思想や発言をするというのは、つねに自由なんです。それが認められているのです。そこまでおっしゃるのなら、もれているのをみききしなきゃいいじゃないですか。あるいは、おれが心のなかでかんがえる暇がないくらい、とっとと用件をいうか、です」
逆ギレ?
いやいや、おれはまっとうなことを述べているよな?
「わけのわからぬ屁理屈ばかりぬかしやがって。わかった。いってやるよ」
そして副長は、おれの逆ギレに逆ギレした。
「耳の穴、かっぽじってよーっくききやがれ」
だから啖呵はいらないから、とっとといってくださいよ。
「わかってるっていっているだろうが。だまってやがれ」
「だから、なにもいってませんてば。ったくもう、おれの心のなかを勝手にのぞきこんでおいて、そんないいぐさはないでしょう?」
「のぞきこむだぁ?だから、もれでているんだよ。のぞく必要など、これっぽっちもあるものか」
副長は唾を吐き散らせつつのたまうと、親指のさきで人差し指のさきをはじき、『これっぽっち』のジェスチャーをした。
これではまるで、ガキの喧嘩だ。
「副長、主計の相手をしていたらきりがありません。ご自身を貶めるだけです」
「ちょっ、さ、斎藤先生。いまの、いくらなんでもひどくありませんか?」
斎藤はさわやかな笑みを浮かべ、えげつないことをいってくれる。
「ああ。たしかにそうだな。ついついのせられてしまう。おれもまだまだだな。かっちゃんのように、万事鷹揚にかまえていられるだけの度量をもたねば」
「近藤局長は、鷹揚にかまえるというよりかは無関心でいることが得意でしたから」
副長の近藤局長贔屓はいつものことである。それはそれで、副長ってば近藤局長のことがガチに大好きなんだって微笑ましく思える。
例のごとくではあるが、当然ながら副長と近藤局長はそういう関係ではない。
この二人にいたっては、全身全霊をもって『そういう関係じゃない』って断言できる。
なんなら、おれのにプラスして全財産を賭けてもいい。
そこはいいとして、斎藤はいったいどうしたっていうんだ?しゃべりスキルに覚醒したばかりか、いつも以上に辛辣さをフル稼働させている。
これでもうお別れってときに、胸のうちと腹の底にたまっているものを放出しきってしまおうとでもいうのであろうか。
「近藤局長の無関心さやみてみぬふりっぷりは、誠にあっぱれとしか申しようがありませんでしたね、副長」
「……」
さすがの副長も、天然すぎる斎藤が近藤局長を心からほめているつもりなのか、あるいは遠まわしにディスっているのか、判断がつかないようである。
副長の言葉もでないって感じのが草すぎる。
それにしても、斎藤って近藤局長のことをそんなふうにみていたのか?
まぁ、かれは天然である。悪気はない、はずだ。
いまのもきっと、いい意味でいったのだ。
かれは、自分では近藤局長のことをほめているつもりにちがいない。「斎藤先生。近藤局長は、無関心やみてみぬふりをされていたわけではありません。逆です。本来なら口だしの一つもしたいところを、局長という立場がそれを許さぬことも多々あります。それこそ局長の一言でになってしまえば、つぎにまつのは責任の所在や重大さです。それらを回避するためには、ぐっとがまんしてそしらぬふりをするしかないでしょう。ゆえに、近藤局長はそうされていたのです。それに、そういうことはすべて副長に任せさえすれば、円滑に事が運ぶことをご存知でいらっしゃいます。したがって、近藤局長はそのようにされていたわけです」
俊冬がみるにみかね、口をさしはさんだ。
かれのこういう機転も、以前のままである。
さらにホッとした。
それは、副長もおなじようである。
一瞬、
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