本来なら城外まで見送る |
本来なら城外まで見送るべきであるが、目立ってしまう。ゆえに、厩のまえまでということになった。
これが今生の別れとなる。史実では、いまここにいるメンバーで生き残るのは会津侯と斎藤、島田の三人だけである。おれ自身戦には生き残るが、その数年後に自殺する予定である。
たとえ史実を捻じ曲げて生き残ったとしても、会津侯に会えるチャンスはないだろう。
会津侯は、避孕 きたときとおなじように相棒を抱きしめて別れを惜しんだ。
かれは実弟の桑名少将とともに、犬猫が大好きらしい。以前、弟と捨て犬や捨て猫を拾ってきては、周囲を困らせたらしい。
誠に動物が好きなんだ、と実感する。
「せっかくなのです。別れの挨拶は、洋式のほうが親密でよくありませぬか?」
会津侯に頭をさげようとした副長にそうアドバイスしたのは、島田である。
「あ、ああ。そうかもしれぬな」
「そ、そうだな」
会津侯と副長は、同時につぶやいた。それから、同時に右掌をさしだした。
息がぴったりである。
「ちがいます。シェイク・ハンドではありません」
好奇心旺盛な永遠の少年である島田は、二人に駆けよりつつ大声でダメだしをした。
ときは深更である。
城内、城外とわず、いまのダメだしが見まわりや見張りの兵にきこえたのではないかと、ヒヤヒヤしてしまう。「ハグでございます。ハ・グ。やはり、熱き抱擁でなくば」
「ハ、ハグ?」
「馬鹿なこといってんじゃねぇっ!」
島田のとんでもない提案に、会津侯は頓狂な声をあげ、副長は気色ばんだ。しかも、副長がそう怒鳴った相手は、なにゆえかおれである。
い、いえ、副長。おれが島田をそそのかしたわけではありません。
心のなかで叫ぶしかない。
「なにを無礼なことをいってやがる」
「ちょっ、おれはなにもいってませんよ」
副長は、さらにおれを怒鳴りちらした。
まったくもう。理不尽このうえないじゃないか。
「承知した。土方っ」
副長から理不尽すぎるパワハラをうけている間に、会津侯が副長の懐を脅かしていた。
副長がその一言で、会津侯へと体を向きなおった刹那のこと。
なんと、会津侯が副長をハグしたのである。
あまりにも衝撃すぎて、だれもが茫然としている。ハグされている副長も、完全にフリーズしてしまっている。
「土方、息災でな。けっして生きいそぐでないぞ」
なんか、すごいとしかいいようがない。
会津侯は、副長に抱きついたまま右耳にささやいた。
副長は、そこでようやくフリーズ状態から復旧したようである。
と同時に副長の両腕がはねあがったのは、大鳥にハグされたときと同様のリアクションであった。
つまり、副長は会津侯にハグし返すかどうかを迷っているわけだ。
が、その迷いの理由は、大鳥のときとはちがう。
会津侯は、まがりなりにも大国の藩主である。なにもかもずっと上の人である。その会津侯を、「マブダチ」か「連れ」に接するみたいにハグするなどということは、日本人の感覚からすればまずかんがえられない。
が、土方歳三はフツーの日本人でなければ、フツーのこの時代の人でもない。さらには、フツーの感覚をもっていないし、フツーの常識すらない。
だから結局、会津侯をハグし返した。
「会津侯も、けっして生きいそぎませぬよう。たとえなにがあろうと生き残り、会津やかかわる人々の真実を後世にお伝えください」
副長にも会津侯のを伝えている。ゆえに、副長の言葉は、心からそう願ってのことであろう。
真実を伝えてほしい……。
それはきっと、会津侯自身のことだけではなく、近藤局長のこともあるはずだ。
「ああ、そうしよう」
会津侯は、そう約束してから副長を解放した。
それから、会津侯は蟻通もハグし、斎藤のまえに立った。
に残りますゆえ、お気持ちだけいただきます」
さすがは天然にしてKY、無遠慮、不躾な斎藤だけのことはある。さきほどとはうってかわったさわやかな笑みでもって、会津侯のハグをきっぱりはっきり拒否ってしまった。
会津に残ろうが残るまいが、「ここは場面的にもハグするところだろう?」ってところで平然と拒否るところといい、さわやかすぎる笑みといい、かれはいつものかれにもどっている。
そこは、ホッとした。
「ぐぐぐ……。く、苦しい。島田、やめよ。わたしを殺すつもりか?」
ほうら、いわんこっちゃない。
会津侯は、島田の燃え滾るベアハッグによって、暗殺っていうよりかは正々堂々と殺られかけている。
「やめないか、島田っ!」
副長と蟻通がひきはがしにかかったのは、いうまでもない。
という順番でハグされてゆき、とうとう残っているのはおれだけである。
俊冬と俊春は、送ってゆくのでハグはしないだろう。
「相馬」
会津侯は、ベアハッグに苦しみぬいた
「わたしは
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