になにか不具合でもあ |
になにか不具合でもあれば、お婿にいけなくなってしまう。 「なにをなさるだと?」 その怒声で、おれのイケメンのことから現実へと意識がもどった。 イケメンと思うたびに、いちいち『おれの』と自分自身にいいきかせなければならないっていうところが、なんかむなしすぎる。 「お馬鹿なわんこをしつけようとしているだけだ」 俊冬はおれをにらみつけ、「それがなにか?」的にいう。 「じゃぁなんで、おれに平手打ちを喰らわせようとするんですか」 「おぬしではない。わんこだ。わんこがよけるからだ。文句があるのなら、わんこに申せ」 「ぽち、よけないで……」 「よけないでくれ、だと?ぽちは、理不尽な暴力にか弱いこの身をさらすことになったとしても、よける自由さえ与えられぬのか?」 「そんなこと、いってませんってば」 子宮內膜增生 って、いってるようなものか。 実際、よけるなっていいたかったんだから。「ううううううううううううっ!」 そのとき、脚許から低いうなり声が這いあがってきた。 しまった。俊春の「お父さん犬」を、またしても怒らせてしまった。 「お、おれの負けです。こうなったら、ぽちのかわりに煮るなり焼くなりしてください」 白旗をあげるしかない。 こうなったらもう、この場をおさめるためにおれがどうにでもなってやろうではないか。 おれってば、創作系にでてくる「自己犠牲の精神凄っ!」のキャラクター同様凄いのである。 「ほう……。これはこれは、殊勝な心がけだ。ならば、遠慮なく」 副長に激似の俊冬のに、にんまりと笑みが浮かんだ。右掌を握ったりひらいたりするたびに、指の関節がパキパキと音を響かせる。 『そんなに指の関節をならしたら、指が太くなって婚約指輪が入らなくなるよ』 って、いいたくなってしまった。 「いやー、いいねぇ。トレビアーンだよ」 いままさに俊冬の平手打ちを喰らうタイミングで、それまで存在感すらなかった、っていうかいたのかって思いだしたのであるが、兎に角、大鳥が拍手をしながらこちらにちかづいてきた。 とめどなく流れ落ちる涙を拭おうともせず、「トレビアーン」を連発している。 かれはいったい、なににたいしてトレビアーンといっているのであろうか? みなのを受けつつ、かれは俊冬のまえに立つと、いきなりハグした。 ちいさな子どもがでっかい人形を抱きしめるみたいに、俊冬をギュギュギューッと抱きしめている。 「いいよ、いいよ、俊冬君。きみも、かなりいい。じつに愛すべき男だ」 大鳥は、ハグ以上の力加減と時間を費やし、幾度もおなじ文言を繰り返している。 そっと副長にを向けた。 口角がかすかに上がっている。 これで、大鳥の愛の対象がまた増えた。副長はほっとしているにちがいない。 「ぼくは感動しているよ。こんなに感動的な出来事に出会ったのは、本当にひさしぶりだよ」 泣きながら絶讃大興奮中の大鳥をみつつ、心底ラッキーって思った。 俊冬の平手打ちを喰らわなくって、マジで助かった。 ふとがあうと、いつものように「ふんっ」と鼻を鳴らされた。 だが、相棒もどこかうれしそうだ。 俊冬がもどってきたからである。 ってか相棒のやつ、俊冬が俊春をいじめる、っていうか暴力をふるうことは許すんだ。 その矛盾は、どこか釈然としない。 「きみらと行動をともにすることにして、誠によかったよ。これからさきが愉しみで仕方がない」 大鳥は、それからたっぷりときをかけて俊冬を抱きしめつづけ、やっと解放した。 っていうか、愉しみって……。 大鳥さん、完璧勘違いしてますよね? こんなキャラクターなら、この激動の時期を無事に乗りきれるのもうなずける。 まぁかれは、晩年が不運に見舞われることになる。いまのうちに人生を愉しむのもアリかもしれない。 そんな感動の再会をおえ、おれたちは若松城へと急いだ。 俊冬の出現に元気づけられ、逃げ脚もウキウキとまではいかずとも軽くなっている。馬たちまで、疲れがふっ飛んだのか、脚取り軽くなっている気がする。 副長と大鳥が馬を並べて先頭を進み、そのうしろには徒歩の斎藤に島田、蟻通がつづく。殿は、「宗匠」に乗っているおれであるが、その左右に俊冬と俊春がいる。 うしろから追ってくるかもしれない敵軍を警戒してのことであるが、二人の間にはさまれるこのプレッシャーは、いつになくヤバい感が半端ない。 相棒は、当然のように俊春にぴったりよりそっている。 「ってことは、ぽちはたまに会っていたんですね。いやだな。はやくおしえてくれたらよかったのに」 馬上から俊春にいった。 責めるような口調になったら、また相棒にうなられてしまう。だから、かなりソフトな感じを前面におしだしてみた。 「なにゆえだ?主計は、またわたしをいじめるのか?」 「はああああ?いまのどこがいじめになるんです?」 俊春はまたしても、おれの問いにたいして想像の斜め上をいきまくっている問いでもって返してきた。 「ううううっ!」 相棒が、うなりつつにらみあげてきた。 「だって、狙撃手が狙っているってことにして、一人敵軍に向かっていったんですから」 「それにしても、さきほどの狙撃はたいしたものであったな」 島田が話にくわわってきた。 たしかに、あの狙撃はすごかった。 さすがは俊冬。 以前、いっていた。野菜の飾り切りではないが、かれと俊春は銃で野菜を飾り撃ちすることができるのだとか。 まぁそんなことができたとしても、あんまり意味のないスキルではあるが。 「道中で休陣している敵軍より銃をいただきました。それをちょっと改良してみたのです」 俊冬がしれっと告白した。 かれは、三丁のエンフィールド銃を携えていた。 それを改良しただって? だから、射程距離が伸びたのか……。
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