それにしても…。 |
それにしても…。
河原町通り?京にいるの?
少し歩くと男は足を止めた。
「ここだ」
美海が思うより存外早く着いた。
美海は唖然と建物を見上げる。
「ここは…」
醤油の名家…
「近江屋………」
美海はなんだか心臓がうるさく跳ねていることに気がついた。
不安が胸を襲う。
頭が真っ白になる。
息が…おかしい。
吐きそうだ。
今日は11月16日。
昨日は…11月15日。【香港植髮價錢】小心平價陷阱! | 方格子
「坂本先生は中におられる。中岡先生とご一緒です」
よく見るとこの男の目が赤く腫れている。
「…1867年…11月15日……近江屋事件…」
美海は呟いた。
フラフラと中に入る。
中の店主が何か言っていたが聞こえない。
何故か身体がこっちだと言う。
場所はわからないのに自然に階段に足を乗せた。
一歩。一歩。
確実に足を進める。
身体は動く。だけど必死に拒否している。
自分でもわからない。矛盾している。
一歩。一歩。
一つの部屋の前で足を止めた。
臭いが…する。
ガラッ
「龍馬…さん?」
私に会いたいんでしょ?
待ってるよね?
ちゃんとあの笑顔で、待ってるよね?
「龍…馬さ…ん…」
フラリと美海は歩み続ける。
「龍馬さん」
「………龍馬さん」
美海は座り込んだ。
確かに坂本は待っていた。
息はもうしていなかった。
白い布が頭から被せてある。
「り…龍馬は…きっとおまんに会いたかったやろ…う…」
美海は声の元に振り向いた。
中岡が床についている。
苦しそうに喋る中岡も重症のようだ。
「中…岡さん…。龍馬さんの…顔見ても…いいですか?」
「見てやったれ…あい…つ幸せそうな顔しとるきに…」
美海は白い布をゆっくりと外した。
真っ先に額に着いた大きな傷痕が目に入った。
「苦しく…なかったですか?」
ふいに美海の目から涙が溢れた。
「龍馬は…即死やっ…たぜよ…」
「そうですか…」
ボタボタと涙が落ちる。
坂本はいきなり斬られたようだ。
腰の銃には手をつけた様子がない。
ガラッ
「立花さん…」
「……お龍さん」
手に花を持ったお龍がいた。
「あんま泣かんといてやってな。あの人は笑ってもらう方が好きやから」
お龍は泣きそうなのを堪えて無理に笑う。
顔は笑っているが、泣いているようにしか見えない。
「中…岡さん。今から治療します」
美海はまだ心がぐちゃぐちゃなまま涙を拭う。
だがやっぱり溢れる。
「いらん…もう…わしも自分で…分かっとる…。お龍。焼き握りが食いたいぜよ…」
お龍は頷いて台所に向かった。
「治療なんかより坂本龍馬の最期を聞いてくれ」--------------------------------
先日のこと。
「いやぁ!ついに大政奉還成立じゃなぁ!」
二人は近江屋にいた。
「ふぇっくしゅんっ!そうじゃなぁ!」
坂本は大きなクシャミをした。
鼻を啜る。
「でもまさかその英雄が風邪ひきよるとは…」
「わしも人間じゃあ!仕方ない!」
そうじゃな。と中岡は苦笑いした。
「まぁ今日は大政奉還の記念と龍馬の誕生日でパーッとやるぜよ!」
「へクシュンッ!おぉ!」
11月15日は坂本の誕生日だ。
「あんま迫力ないなぁ…」
ジト目で中岡が見た。
「ばーすでーぱーちーだからいいぜよ!」
二人は笑った。
海外で見てきて羨ましく思ったのか、坂本は自分も誕生会をやりたいと言い出した。
「しっかし、これで世が変わるんじゃろうか」
中岡は鍋をつつきながら言った。
「大丈夫じゃ!絶対に変わる!」
坂本はいつもの如く、歯を出して笑った。
|
あ!土方さん! |
あ!土方さん!
美海は厠に言った後、土方を見つけた。
誰かと話してる?
土方ともう一人は角にいて見えない。
ボソボソと話し声がする。
所々、単語しか聞こえない。
「……伊東……長州……」
「………藤堂………」
そんな言葉が聞こえた。
土方の表情から良いことではないのは確かだ。
話が終わったのか、こっちに来る。
「お。美海」
土方はポーカーフェイスで言った。
「何!?美海ちゃん!?」
話相手は山崎だったようで、走ってこっちに来た。
「えっと」
「美海良かったな」【男士脫髮】認識脫髮先兆及成因做好脫髮改善! | 方格子
土方が美海の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「おかげさまで」
美海は笑った。
「美海ちゃん!沖田さん大事にしぃや!」
「はい!」
「本当に二人共鈍感だからかなり心配した」
土方がため息をつく。
「ははは…。すいません」
「本間にめでたい日やなぁ」
山崎の目はどこか遠くを見ていた。
「じゃあ、俺は一足早く隊務に戻るから。幸せにやりや!」
山崎は美海を軽く抱きしめた。
だか山崎は美海を離すと先を見ていた。
美海も振り向く。
そこには殺気丸出しの沖田がいた。
「ははは!何もしてへんよ!そんな牙むかんといてや!」
山崎は沖田に近寄った。
ポンと肩を叩く。
「仲良おな」
ニコリと笑って、通りすぎた。
だがその後難しそうな、真剣な仕事の顔になったのは誰も気付かなかった。
あれから約一ヶ月後。
たまに土方さんと山崎さんが難しい顔をしていたけど、私達は幸せに過ごしていた。
だが、
1867年11月9日。
大政奉還が起こった。
大政奉還。
江戸幕府15代将軍、徳川慶喜が明治天皇に政権(統治権)を返上した。
「全く!何考えてんだ徳川は!」
原田が怒鳴る。
「左ノ。口を慎め」
近藤が言った。
「全く…。どうなってんだ」
更に11月15日。
坂本龍馬が暗殺された。
まだ美海達は知らない。
「時勢が…変わる…」
美海はポツリと呟いた。
とうとうここまで来てしまった。
廊下を歩く。
「……え?」
角を曲がると、懐かしい背中を見た。
相手は振り返る。
「斉藤さん…」
庭先の落ち葉が散った。
「斉藤さん…」
美海は静止したままだ。
なんで───。
斉藤も美海を見たまま動かない。
落ち葉が散る音だけが聞こえ、嫌な沈黙が流れる。
なにか言葉を掛けようと思うのだが、喉の途中で止まって声にならない。
なんで?
斉藤さんは確か、伊東さんと。
「久しぶりだな」
斉藤から一言掛けてきた。
相変わらずのぶっきらぼうなしゃべり方。
斉藤さんだ。
「え…えぇ」
美海のやっと絞り出した言葉がこれ。
久しぶりに会う喜びと、何故あっちに行ってしまったかの疑問。
なんで斉藤さんだけ?藤堂さんは?
いろんな感情が脳内に飛び交う。
ガラッ
「斉藤くん?何をしてる。早く入りなさい」
部屋が開き、土方が顔を出した。
斉藤は真っ直ぐ前を見据えている。
土方は斉藤の目線の先を辿る。
なるほど。
土方も美海と斉藤が対面していることに気づいた。
美海は複雑そうな顔をしていた。
「美海も入れ」
土方が声を掛けると美海は小さく頷いた。
「座ってくれ。で。どうした?」
土方が聞く。
斉藤は土方の前に腰を降ろした。美海も続く。
|
「手術中に倒れて気が付いたらここに…この |
「手術中に倒れて気が付いたらここに…この時代にいたんです!信じられないかもしれないけど信じてください!」
美海は必死に訴える。
「えっと…立花さんはこの時代の人でない…と。なんでこの時代に来たんですか?」
隊士が聞いた。
「それは私もわからないんです。でも私はきっと沖田さんを治すために来たんじゃないかなと勝手に思っています」
「じゃあ沖田隊長が治ったら立花さんは帰るってこと?」
また別の隊士が聞いた。
美海ははっとした。
そっか…。
いつかは戻るかもしれないんだ。高科技育髮:激光生髮帽還是機械人植髮?生髮帽副作用分析
ここにいることに馴れすぎて。
ここにいることが心地よくて。
すっかり忘れていた。帰るかもしれないってこと。
「美海くん?」
いきなり黙り込んだ美海に近藤が声を掛けた。
「あ!すいません!それは私も自ら来たわけじゃないんでわかりません…。話を戻しますね」
美海は再び息をついた。
「最初は土方さんは知らなかったんです。私、異人として取っ捕まえられたぐらいですから」
「で、私も入る予定はなかったんです」
そして美海は土方が最初は認めなかったこと、土方に素性がバレたこと、土方が不器用ながらも庇ってくれたこと。
ここに入った経緯を全て話した。
「本当に土方さんには感謝してもしきれません!土方さんは、本当はとても、とっても優しい人だから!私を助けてくれたんです。だから土方さんを責めないでください!
私にはどんな処罰が下っても構いません。覚悟はできています」
いつも気ダルそうにして、土方にちょっかいを出している美海では考えられない発言に皆、ジンときた。
まぁ土方さんには絶対言わないけど。
周囲の何人かは美海がそう呟いたのが聞こえたのだが。
隊士達はあまり気にしてはいなかったため、普通に祝うつもりだった。
まさか美海から切り出してくるとは思わなかった。
「近藤さん…。どうぞ。お気になさらずに」
美海は近藤を真っ直ぐ見た。
近藤は目を瞑っている。
皆静かに見守る。
「処分は…」
ゴクリと皆息を呑んだ。
「総司と美海くんは歳が帰ってきたら直ぐに式を挙げること!」
「へ?」
美海がきょとんとした。
「し…式ってなんの?」
沖田も目を見開いている。
「決まっているだろう!祝言だ!!」
近藤は清々しそうに言った。
「きょおくちょおぉぉぉお~!!」
「あんたは男だぁぁぁあ!」
「局長サイコー―――!」
ヒューヒューと口笛がなる。
静まり返っていた屯所内のテンションは一気に最高潮に上がった。
「よっしゃ!仕切り直そうぜぇ~!祝言正式決定と近藤さんの優しさと美海の真実…あれ?とりあえずなんかいろいろ乾ぱー――い!」
原田の意味のわからない叫びで屯所はどんちゃん騒ぎになった。
「立花さん!未来について教えてください!」
「え?」
「立花さん!今まで大変だったんですねぇ!」
「あ、ありがとうございます」
美海は沢山の隊士に囲まれる。
もっと軽蔑されると思ってた…。
良かった。また皆と仲良くやっていけるのか…。
「総司!美海とはどうだったよ?」
こちらは原田と永倉に挟まれている。
「美海胸はないけど案外「ないとか言わないでくださいよ!」
バシッ
沖田は原田の頭を打った。
「っつ~~!」
原田は頭を抱える。
「それにそんなことやってませんよ」
「「は?」」
「だからやってませんよ」
「じゃああの血はなんだ?」
「鼻血だそうです」
「「えぇぇえぇぇ!?」」
二人は飛び上がった。
沖田は呆れてふと美海を見る。
隊士に囲まれている。
沖田は立ち上がった。
「新撰組の行く先とか知りたくないんですか?」
「んー――…。気にはなるけど…」
「けど?」
「俺らは先をどうこう考えて行動するのは苦手ですから!な?」
「「「おう!」」」
「皆さん…」
フワッ
美海の頭に手が乗った。
思わず見上げる。
「そうですかぁ。先を考えて行動するのは苦手なんですかぁ。でも美海さんに手を出した先ぐらいはわかって行動できますよね?」
美海が振り向くと後ろには黒い笑みを浮かべた沖田がいた。
「「「ひぃぃぃいぃ!」」」
美海は苦笑いした。
美海が女だとバレても今後セクハラ行為に合わなかったわけはここにあった。
|
上目遣いで顔が赤い。 |
上目遣いで顔が赤い。
ように見えてるのは沖田だけだ。
沖田フィルターを外すと実際はいつも通りである。
ボッ
沖田は顔を真っ赤にした。
「だだだ大丈夫ですか!?どうしたんですか!?」
肌が見える…。
服がはだけてる(ように沖田は見える。)
ち…近い…。
寄らないで。も…駄目だ。
ドサッ
「きゃっ!?」
ピチチ…ピチチチチ…
襖の隙間から光が洩れる。
朝を向かえた。
「ん…?」
沖田は腕に感じる重みで目を覚ました。植髮免剃全頭? 詳看FUT / FUE / Artas植髮過程分別 - 方格子
ギョッとした。腕の上に美海の頭がある。
「な…なんで!?」
昨日の夜の記憶が全くない。
「あれ!?」
沖田の上半身、着物が脱げている。
目を凝らすと布団に血がついていた。
まままままさか!
私は美海さんと…とうとうコトを起こしてしまったのか!?
隣を見ると美海がスヤスヤと寝ている。
だから嫌だったんだ…。
美海さん…ごめんなさい!
「おーい!総司!」
ガラッ
ニヤニヤと笑って入ってきた永倉と原田だったが、襖を開けた瞬間固まった。
「な…永倉さぁん…原田さぁん…。私はどうしたら…」
半泣きの沖田がそこにはいた。
永倉と原田もまさか本当にやるとは思っていなかったのだろう。
着物…脱げて…る?
総司から…色気が出ている…(ような気がする。)
「よくやったよ。お前は」
永倉は目を瞑った。
「ごゆっくり」
再び永倉と原田は襖を閉めた。中には入って来なかった。
「そ…そんなぁぁぁぁあ!永倉さん!原田さん!助けてくださいよ!」
もはや自分でも何を助けてもらいたいのかもわからない。
「く…。総司がとうとう…」
原田は外に出た瞬間目頭を抑えた。
「左ノ。泣くんじゃねぇ。いつかは皆通る道さ」
「んー――…ん…」
美海が急に伸びをした。
ムクリと起き上がる。
「あ。おはようございます」
美海は笑った。
「おおおおおはようございます!!」
美海の頭が退いたため、瞬時に沖田も起き上がった。
「あ。鼻血止まったようですね。よかった!」
「はい!って、え?鼻血?なんのことです?」
「覚えてないんですか?昨日急に顔を真っ赤にして鼻血出してぶっ倒れたじゃないですか」
「え…?」
そんな気もしてきた。
「あーあ。女中さんに布団洗ってもらわなきゃ」
あれ?
この血…もしかして鼻血…?
「この血って…鼻血ですか…?」
「ええ。それ以外になにか?」
美海はきょとんとしている。
「なんで私上半身脱げてるんですか?」
「熱っぽかったから?」
「なんで美海さんの頭が私の腕に乗ってたんですか?」
「厠行った後に帰ってきたら寒かったから?」
なるほど。
全て私の妄想だったわけですね。わかりました。
沖田はよかったような残念なような気持ちになった。
確かに両者の指に指輪はちゃんとある。
告白したのは間違いない。
そしてオッケーをもらった。
ただ、こんな急展開はあり得なかったのだ。
美海と沖田だ。あり得ない。
「朝食…。行きましょうか」
沖田は笑った。
まぁいっか。焦る必要はないんだし。
もう私だけのものなんだから。
「はい!」
美海は立ち上がり、横に立つと沖田の手をさりげなく握った。
沖田は驚いた顔をして美海を見た。少し顔が赤い。
なんだ。ちょっとずつ、進展してるじゃないか。
幸せだ。
「行きましょう!」
沖田は自分の顔が綻んでいくのがわかった。
美海と沖田は大広間の前で手を離した。
「いいですか?誰にも悟られちゃ駄目ですよ。私たちがつ…付き合っていることを」
口に出すとなんだか照れ臭い。
「わかってますよ!」
「本当に、関係がわかったらあなたが女だとバレるかもしれないんですからね!」
沖田はもう一度念を押した。
「わかってますよぉ」
美海は頬を膨らました。
実は既に皆知っていることを二人は知らない。
沖田は美海の頭を撫でると戸に手を掛けた。
|
笑ったまま美海は静止している。 |
笑ったまま美海は静止している。
あれ…?抱きしめられ…
「おおおお沖田さん!?」
いきなりの出来事に美海は目を回した。
顔は真っ赤だ。
ギュッ
更に沖田は腕に力を入れる。
ぅわわわわわ!
美海は更にテンパった。
前!腕!沖!
心臓がおかしい。
こんなに密着してたら聞こえてるんじゃない? 【植髮】拆解植髮失敗原因增加植髮成功率! | 方格子
あり得ないぐらい鼓動が高鳴る。
辺りは新撰組屯所とは思えないぐらい本当にシンとしていた。
「好きです」
「………へ?」
沖田は一旦美海の肩に手を置いて距離を置いた。
視線がぶつかる。
美海は真っ赤だ。
沖田は真っ直ぐに美海を見る。
さっきまで挙動不審としていた沖田とは別人のように堂々としていた。
「私は美海さんのことが好きなんです」
今度ははっきり。
絶対に聞こえた。
風で沖田の長い黒髪が揺れた。
美海の茶色い髪も揺れた。
それでも視線は逸れない。
逸らせない。
「何度でも言います。好きだ。好きだ好きだ好きだ…!」
今までに聞いたことのないような沖田の声だけが中庭に響く。
美海は呆然と沖田を見る。
「なんかもう…言葉じゃ全然足りないんですよ。好きすぎて…おかしくなりそうだ…」
沖田は美海の肩に置いている手の力を緩め、下を向いた。
あーあ…。
言ってしまった。
今しかないって思った。
今だって。この人だって。全身がそう言った。
土方さんに相談しようと思ったんだけどなぁ。
考えるより先に動いちゃうんだ。
身体が心が勝手に。
美海さん。引いてるだろうなぁ。
でも後悔はしてない。
伝えなきゃ。伝わらないから。
「…………です」
美海の小さい声が響く。
美海は自分の肩にある沖田両手を静かに下ろした。
沖田の大きな手を包むように握る。
「私も…私も好きです。ずっと、好きだった」
ザァァァァァアッ
中庭に植わっている緑の葉が散った。
もうすぐ夏が来る。
バッ
沖田は目を見開き顔を上げる。
「い…今なんて…」
「私は沖田さんが好きです」
美海は微笑みながら言った。
美海さん…?
私を…好き?
「もう一回…お願いします」
「な!何度もは言いませんよ!す…好きです…」
美海は顔を真っ赤にしながら口を尖らせた。
あぁ。なんて可愛いんだろう。
なんて愛しいんだろう。
グイッ
「ぅわっ…」
沖田は美海を引き寄せた。
もう一度強く抱きしめる。
暖かいなぁ。
「いいんですか?私は美海さんを守れませんよ?」
沖田は再び美海の顔を見た。
「今まで散々守ってくれたじゃないですか。今度は私が守ります」
「いいんですか?私、病持ちですよ?」
「もう治ることじゃないですか!」
「いいんですか?私、独占欲強いですよ?」
「上等です!」
沖田は美海の顔の位置に屈んだ。
整った顔が目の前にあった。
唇と唇が当たる。
短いキスだった。
「大好きです」
「美海さん。目、瞑って手を出してください」
「?」
不思議そうに美海は目を瞑る。
そんな美海を見て沖田は微笑んだ。
指にスルリと通した。
冷たっ!?
「いいですよ」
美海はゆっくりと目を開いた。
そのまま大きく目が開く。
「ゆ……指輪…?」
「現代ではこうするんでしょう?」
「わ…な…なにこれ…こんなもの貰えるなんて…私…知りませんよ!」
「内緒で作りましたから」
沖田は笑った。
よくあの説明だけでここまでできたな。
美海は感心した。
少し現代の指輪よりは太い。
それになんの飾りもない。
「それ、菊一文字を溶かしたんです」
「綺麗ですね」
「でしょう?」
でも美海にはどんな高い指輪よりも、ダイヤモンドよりも輝いて見えた。
「一生大切にします!」
美海は涙を浮かべながら笑った。
「あ。沖田さん。まだ忘れていることがあるんです」
「あれ?」
沖田は首を傾げた。
美海はクスクスと笑う。
「誓いのキスです。一生私のことを、好きでいてくれますか?」
「もちろん!」
美海は背伸びすると沖田にキスをした。
|
美海は無視を決め込んで歩く。 |
美海は無視を決め込んで歩く。
今までの経験上、応えるとしつこいスカウトマンもいるため無視だ。
「ちょっとちょっと!そこの黒髪の君だよ!」
無視。
今日は病院には行けない。叔父さんが忙しいらしい。香港脫髮研社
家に帰ったら寝よう。
美海の学校は呑気なもので、少し寂しそうな雰囲気はあるが、受験特有の焦りはない。
成績優秀な生徒は焦る必要はないし、スポーツ推薦なら、大学からのスカウトも既に来ている。その他も自己推薦がある。
世の中便利になったものだ。
それから時間は容赦なく進んで全員大学が決まった。
極稀に第一志望が落ちた生徒もいたが、第二の、それでも一流大学に行った。
安全選択で指定校推薦を取った者もいる。
「美海!医大受かったらしいね!おめでとう!」
「ありがとう」
美海は笑った。
「佳菜も法学部受かったんでしょ?」
「うん!」
「倍率すごかったらしいね」
「へへへ」
山本は照れたように笑った。
佳菜は某有名大学の法学部に合格した。
詳しくは聞いていないが、弁護士になりたいらしい。
佳菜なら見た目に寄らず口が達者だから上手くやるんじゃないかなと思う。
ついこの前までは「美海とおんなじ大学いく~」とか嘆いてたけど…。
今はしっかりした目で前を見据えている。
大学は友達に合わせるもんじゃない。
ちなみに可哀想な赤坂くんはサッカー名門校のスカウトで大学が決まった。
「もう卒業だね…」
「そだね…」
校庭の桜の木の蕾は日々膨らんでいる。
とても楽しかった。
今までで一番楽しかった。
本当に、この学校に入ってよかったと思う。
「卒業しても…友達でいてね?」
山本が心配そうに言った。
美海は答えるかわりに抱き締めた。
本当は少しだけ…少しだけ卒業したくない。
けど前に進まなきゃ行けない。
皆いつかは別れるけど、高校で出来た友達の絆はそう簡単に切れるもんじゃない。
お互いが思っているよりもっと太いものだ。
大事な友達も出来たしなぁ。
「卒業生代表。赤坂圭斗!」
「はい」
やっぱり赤坂くんか。
赤坂は胸を張って壇上に上がる。
蕾だった桜は綺麗に咲いて、空はご機嫌。
卒業生…。そんな言葉で改めて実感する。
手には卒業証書。胸ポケットには花が刺さっている。
壇上を見ると赤坂は一礼し、もう紙を開いていた。
赤坂は、卒業生、在校生、先生が見守る中、口を開いた。
「早いもので、もう卒業です。入学式がついこの前のように感じられます」
マイクで声が響く。
「──皆で頑張った大会、楽しかった修学旅行…」
赤坂の話を聞きながら美海は思い出を振り返る。
ここでは何しても楽しかったな。
その思い出の1ページ1ページには必ず山本がいた。
「──皆と過ごした高校生活は最高に楽しかったです!」
佳菜がいたから楽しかったんだよなぁ。
美海は後ろを振り返った。
鼻水を足らしながら山本が号泣している。
「──私達はまた新たな道を海星院生として胸を張って歩みたいと思います。
これからの海星院の未来を在校生に期待を託して、私達は今日、ここに卒業します!平成×年3月20日。卒業生代表、赤坂圭斗!」
赤坂は清々しい顔で言い切った。
パチパチパチパチパチ
たくさんの拍手が聞こえる。
なんだか涙腺が…。
また長い式典が続き、先生の話辺りで涙腺がピークに達した。
結局歌は皆、号泣で何を歌っているかわからなかったが、私達はしっかりと歌った。
|
永倉と原田は縁側に座る人物の背後に |
永倉と原田は縁側に座る人物の背後にこっそりと回る。 「「そ う じ くー――ん!」」 ガバッ 「わぁ!永倉さん!原田さん!なんですか!?」 永倉と原田に抱きつかれ、ぼんやりしていた頭が一気に覚醒する。 珍しく沖田は本気で驚いたようだ。心臓に手を置いている。 「なぁ。総司」 「はい?」 「「お前結婚すんのか?」」 見事に原田と永倉の声が被った。 「はぁ?何言ってるんですか?」 沖田は怪訝な顔をする。 「なんだ。しないのか」 永倉は面白くなさそうに地面を蹴った。 「しないもなにも。そんな情報どこから?」 「美海が」 「美海さん?」 沖田は頭の中で回想する。 しばらくして、あぁ。あの事か。と沖田は頷いた。 「しませんよ」 「なぁ。正直に言えよ?」 永倉は沖田にズイッと顔を寄せると周りをチラチラと見た。 「ぶっちゃけ美海のことどう思ってるんだ?」 沖田は目を見開いた。 「ど…どうって…」 目を泳がせてあたふたとしている。 その様子を見て原田と永倉はニヤニヤする。 原田と永倉は沖田を挟むように腰を降ろした。 風がきもちいい。 「なぁ。好きなやついんのかよー?総司も良い歳だろ?」 永倉はニヤニヤしながら更に沖田に近寄る。植髮 沖田は自分を取り戻したようで目を伏せて冷静に言った。 「なんでそんなこと永倉さん達に言わなきゃならないんですか」 ここで美海さんだなんて言ったら今後何を脅されるか分かったもんじゃない。 毎日おちょくられる。絶対。 だが既にバレている。そんな努力は無駄だ。 「なぁー。いるんだろ?なぁー。なぁー」 原田も更に近寄る。 「なぁー」 左右からなぁなぁと煩い。 「あ゛ー――!煩いなぁ!もうほっといてくださいよ!」 沖田は立ち上がってその場から逃げようとした。 駄目だ。この人達の近くにいたら駄目だ。一刻でも早くこの場を去ろう。そうしよう。 ガシッ だが突然体が引き止められる。引きつった顔で後ろを振り向いた。 「「み な み ちゃーん!」」 そこには絶好調にニヤニヤした原田と永倉がいた。 何をどうしたらあそこまできもちわるい笑みが浮かぶのか。 ボボボボボボッ! 沖田の顔は真っ赤になった。 「……ほーう。気づいたのは大分前かぁ!」 「はい…」 沖田は赤面しながら俯いている。沖田の実に分かりやすい行動から結局質問責めにあっていた。 「あの接吻事件の時かぁ…」 原田は思い出して顔を濁らす。 「今思えば土方さんが男色がどーのって騒いでたが美海は女だったからなぁ」 「で?」 「はい?」 「どこが好きなの?」 沖田は真っ赤になった。 沖田はもじもじとしながら答える。 「茶色い髪の毛に小さい体。真っ直ぐに前を見据えた強い瞳。朝が弱いとこに、賢いところ。気配り上手で」 気配り上手?いや。どう考えても逆に気配りできてないよな。 恋は人を盲目にさせる。 「自分より相手を思うところ。優しいところに前向きなところ。あとよく食べるところや一緒に土方さんにいたずらしてくれるところや強いところや───」 最初の方は理解できた。 だが後は全くわからない。最早本当に沖田自身しか理解できない。 照れていたくせに今は幸せそうにペラペラと喋っている。 思ったよりも重症だな。 入れ込みすぎだ。 「全部好きだけど、やっぱり一番は笑顔ですね!」 周りに勝ち目はない。 「「はぁ…」」 永倉と原田はため息を着いたが暖かい目で沖田を見ている。 あの総司がねぇ。 なんだか不思議な気持ちになった。 じゃあ多分両想いなわけかぁ…。 永倉と原田は顔を合わせた。 「でさぁ。なんで結婚の話なんかしたんだ?」 「………」 沖田は哀しそうな顔をして下を見た。 「永倉さん。原田さん」 「あ?」 「なんだ?」
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流される直前に、主人の伯母君である東三条院様の機 |
流される直前に、主人の伯母君である東三条院様の機転で、高貴な家系ながら貧しい貴族の娘を女房としたのである。
それが今の北の方。実質上の側室……いや、正室あつかいである。
主人には、都に残した幾人ものおなごや子がおり、今でもかなりの反物が贈られている。
法皇との一件もおなごがらみである。
この地が気に入っているという言葉には、その意味も含まれているのだ。翌日には主人の気が変わった。
イダテンを、今すぐ追い出せと迫られた。
隆家様への急使とする件は反故にされたのである。
宗我部国親から大量の貢物が届いたのだ。
国司であり受領である者は、強大な権限を持ち、莫大な蓄財が可能となる。
だが、土着の武士の中には、私田の開発により国司を遥かに凌ぐほど豪勢な生活を送るものもある。
まさに宗我部国親がそれであった。
その使者から、姫君は、鬼の子をたいそう気に入られているそうですな、といわれたらしい。
かつて、国親はイダテンの父に煮え湯を飲まされている。【香港植髮價錢】小心平價陷阱! | 方格子
イダテンを遠ざけたいのだ。
謀反が近いからこそ余計に。
それは、もはや確信に変わった。
額を床にすりつけ、猶予を請う。
「まだ、申すか。僭越であろう」
烏帽子が床に当たってずれた。
「ほかの国では、郡司らが国衙や国司の邸の警護をするのが当然と聞いておる――にもかかわらず、そなたの進言を入れて国親を外し、自前の兵に当たらせてきたのだ」
国親にこれ以上、力をつけさせたくなかったのだ。
警護のための費用は任命された武士が持たねばならないが、それを断る者はいない。
国衙や国司の邸の警護は地頭としての根拠となるからだ。
しかも、国衙には兵器庫も、国中の良馬を集めた御厩もある。「国親ほど、しっかりと年貢を徴収できる郡司は、なかなかおらぬと聞くぞ」
主人の怒りは収まらない。
「国親より、薬王寺の紅葉の宴に誘われた。以前より開墾の相談に乗ってもらえぬかと打診があった。その話もあるのだろう」
「お待ちください。万一、その宴のことが朝廷に伝わりましたら……」
思わず主人の話をさえぎった。
主人の機嫌などうかがってなどいられなかった。
流罪の身である主人は、朝廷の許可なく邸の外に出ることも、国衙のに介入することも禁じられていた。
ゆえに役人に任せざるを得ないのだが、近頃は、その役人も国親の言いなりである。
この邸内の宴であれば言い訳もできよう。
開墾の相談に乗ったと釈明したところで、邸の外に出たという事実に変わりはない。
左大臣の腹ひとつだ。
主人とて、それは重々承知のはずだ。
「あの男が難癖をつけたところで、帝がお許しになるものか」
下衆ごときが意見をするなとばかりに続けた。
「そなたのように、あれこれと疑っていては相手に伝わろう。今後は、国親に国衙の警護をまかせることにする……そなたは、宴には同席せずとも良い」
進物や、かかる費用のことばかりではないのだろう。
都に帰れるのであれば。有力な武士を自分の影響下に置くことは、有益だ。
主人がそう考えている――そうとでも考えねば、仕えているおのれがみじめだった。だが、主人の変心の理由は、ほかにあった。
「新たに荘園献上の申し出があった。国親が官位を得られるよう働きかけてやらねばなるまい」
その言葉に戦慄した。
やつに官位など与えれば、その地盤はいよいよ盤石なものになってしまう。
もはや諫言など伝わらぬことが分かった。
*
目の前で老臣が頭を下げている。
だが、老臣が謝罪することではあるまい。
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三郎は目を輝かせ、元服したときの名前の相 |
三郎は目を輝かせ、元服したときの名前の相談をしていた。
漢字にしたらどうなるのかと。
「ヨシノモリですか、ずいぶん古風な……ああ、皇子様の供をした先祖の名ですね。立派な名を継ぐのですね」
「名前負けといわれそうですが」常とは違い、三郎があらたまった口調で答える。
「よい、励みとなりましょう」
姫は、照れる三郎の目を見て微笑んだ。
「そうですね。今であれば……」
筆をとり、いくつもの候補をあげた。
三郎は意味を問い、考え込んだ。
結局、「義守」が気に入ったようだ。
ミコの名は、正式にはらしい。
姫の書いた手本を真剣に写している。【男士脫髮】認識脫髮先兆及成因做好脫髮改善! | 方格子
それはと言うもので、特に男の人に教えてはならないと注意されていたが、
「イダテンにも?」
と、尋ね返し、姫の笑いを誘っていた。
『長恨歌』を書き写していると、姫が丁寧にたたまれた赤墨色の直垂を、イダテンの前に置いた。
なにごとかと顔を見ると、
「袖口がほつれていますよ」
と、微笑んだ。
確かに筆を握った右の袖口にほつれがある。
山に入った時に引っかけたのだろう。
「繕いましょう」
言っている意味がわからない。
「できるのか、という顔をしていますね。料理などはやらせてもらえませんが、衣の仕立ては妻の仕事。これだけは習わせてもらえるのですよ」
仕立てや針仕事が、できるのか、できないかではない。
鬼の子の衣のほつれを直そうという感覚がわからない。
気になると言うなら誰かに任せればよいだろう。平伏した、その額から汗が噴き出す。
主人の機嫌が悪い。
宗我部国親の名を出した途端にこのありさまだ。
御簾の向こうには、この地の国司、阿岐権守と妻である北の方がいる。
「ささらがが、鬼の子を助け、そなたの親族のもとで治療させておるとは聞いておったが……」
話題も国親の話からそれていく。
主人の怒りを察して、北の方が言葉を補う。
「近頃は、なにやら習い事をさせておるとか」
「はっ、郭内の湧き水を汲みあげる釣瓶に工夫を加えまして、皆が重宝しております。工芸、建築の才能は宮大工でさえ驚嘆するほど優れており、開花させるには、読み書き、算術をと……なにより、自ら持読をされることが張りになったのか、病がちであられた体調も、このところ――」
主人が、いら立ちを隠そうともせず遮った。
「鬼の子と呼ばれているからには、人ではないものであろう」
「見かけは奇なれど、一度たりとも民に力を揮うことなく……念のために、常に二、三人張りつけておりますれば」
主人が人の話の途中で扇を開いた。
機嫌の悪い時の癖である。
北の方がやんわりと間に入る。
「以前は、そなたの孫の義久を気に入っておりましたね」
「その節は……」
「義久の悪童ぶりにも驚かされましたが、こたびは、それとは違いましょう」
これまでは幾度も忠信を支持してくれていた北の方であったが、風向きが違うようだ。
同席したのも、これが目的だったのだろう。
加勢を得た主人が、ここぞとばかりにたたみかける。
「どうやら、一癖あるものに興を惹かれるようだな。唐猫だけではものたりぬか」
「それは……」
いかに主人といえど、口にして良いことと悪いことがある。
確かに義久は悪童ではあったが、鷲尾の家を再興するに足る器だと思っていた。
兄、信継も、そう期待したからこそ、長年封印してきた「義」の文字を許したのだ。
「未だに、扇さえ使わぬことがあるというではないか。加えて雑仕女どころか鬼とも直接言葉を交わすなど言語道断……甘やかしすぎたかの、忠信」
これには返す言葉がない。
忠信にとっては、自慢の姫様でも、公家の姫君としては明らかに不適格な行為であろう。
それを許してきたのはほかならぬ忠信である。
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「敗走寸前の戦のさなか、皇子の旗印に鷲が |
「敗走寸前の戦のさなか、皇子の旗印に鷲が舞い降りたことから戦況が大きく変わったそうじゃ。あの地は、その尾が向いていたことから鷲ノ尾と呼ばれるようになったと言われておる。そこに住み着いた先祖もやがて鷲尾と名乗るようになったと……皇子様が夢半ばで倒れず、帝につかれておればと、酒が入るたびに繰り返す親族もおるが、せんないことじゃ。今は昔、じゃ……その後の戦乱や訴訟に敗れ、もはや、この地にわれらが所有する土地はない」
土地を巡ってのいさかいは多い。
イダテン自身、その目で見たことがある。
「わしの兄者……名は、義久というのじゃが『三郎、元服のときにはヨシノモリ様の名を継げ』と言うてくれた。烏帽子親になるであろう大伯叔の信継様にも話しておくと」
三郎は、膝を抱え眼下に目をやっている。
「正直に言うとな……」三郎が言葉に詰まり、そして、絞り出すように口にした。
「わが家は『武家』とは言えぬのじゃ」高科技育髮:激光生髮帽還是機械人植髮?生髮帽副作用分析
振り向いてイダテンを見つめてきた。
その眼には怯えがあった。
「――いや、名を騙っているわけではない。十年前までは確かに武家であったのだ。胸を張って武士と口にできたのだ。武士とは……国司さまの交代の際の『大狩り』に招かれた者を言うのじゃ」
三郎の声が震えていた。
「……気がついておろう。領地も役料もないわが家では馬を買うことはおろか、養って行くことさえできぬのじゃ。おお、その通りじゃ。馬が無ければ大狩りには参加出来ぬのじゃ。どれほどの弓の腕があろうとも武士とは名乗れぬのじゃ。次に大狩りがあったときに継信様が健在であれば、借りることはできよう……だが、所詮は借り物じゃ。いざというとき、はせ参じることができずに武士と名乗れようか」
その大伯叔も領地持ちではない。
荘園の管理をして役料を得ているにすぎない。
国司が代われば、その役も保証の限りではない。
おじじも領地のない公家侍という立場だ、と続けた。
「鷲尾の名を再び轟かせるのじゃ。再興せねばならんのじゃ。三郎ヨシモリが名でな……戦に出て、手柄を立てるのだ。領地を得れば馬など何頭でも飼える。堂々と武士と名乗れる」三郎は続けた。
その目はうるんでいた。
「おかあに毎日、白い米を食わせる。よい衣を着せる。頭が痛いときは、働かぬでも良いように使用人を雇う。ミコに立派な嫁入り道具を持たせる……そして、わしは……わしは、この地のとなる!」
イダテンには思いもつかない望みだった。おばばの遺言などなくても、人と交わるつもりはなかった。
しかし、姫の提案を断ることなどできそうになかった。
姫が親族から借りたという書物が目の前に積み上がっている。
いずれも建築に関する書物だ。貴重なものであることは、老臣の様子からも見て取れた。
むろん、鬼の子に見せる、などとは言わなかっただろう。
むさぼるように読んだ。
正しくは見た。
図だけを眺めてもすべてを理解することはできない。
悔しいが、読めない文字も理解できない言葉も算術もあった。
持ちだせないと聞き、姫にもらった紙に書き写した。
紙は高価なので小さな文字で、ちまちまと書いた。
人からものを教わるなど、考えたこともなかったが、すべてを理解したいという誘惑には勝てなかった。
読み書き、算術を学ばねば、これらを理解することなどできない。
持読とやらを受け入れるほかあるまい。
帰り際に老臣が一言つけ加えた。
「作りたいものがあれば材料や道具はこちらで用意する。遠慮なく申しでよ」
思ってもいなかった提案だった。
その日以来、毎日夢を見るようになった。
父と母の、あの夢だ。
骨と皮になりながらも仏に感謝して手を合わせるおばばの姿だ。
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都には地面を深く掘って地下から水を汲 |
都には地面を深く掘って地下から水を汲みあげる井戸というものがあるというが、掘るのには手間がかかり、とんでもない費用が掛かるという。
井戸は深いため、多くは滑車付きの釣瓶を使うものの、忠信が道隆寺で見たものと同じ様式で、これほど軽くはないというのである。
「わたしにも」
その声に振り向くと、姫が縄に手をかけようとしていた。
「なりません。姫君のなさることでは、ありません。お召し物も汚れましょう」
梅ノ井の制止に不満げな姫とは対照的に、三郎が笑顔を浮かべ、もの言いたげに忠信を見上げていた。「……これをイダテンが工夫したというか?」
「イダテンが考えたのじゃ。わしも手つどうた」
と、つけ加える。植髮免剃全頭? 詳看FUT / FUE / Artas植髮過程分別 - 方格子
近くにいた男たちが口々に褒め讃える。
「これなら童でも水汲みができよう」
「屋根があるのも良い」
「作りも美しい」
三郎が満足げに応じた。
「イダテンは何をやらせてもうまいぞ」
「姫さま、みて、みて! これもイダテンがつくったの。ミコが、もらったんだよ」
自慢げに、「ほらーっ」と、小さな手のひらを開くと、二寸ほどのうさぎの木彫りが現れた。
「まあ……」
姫が絶句したのも無理はない。
うさぎは、何かの気配を察知したかのように立ち上がり、ぴんと張った耳には緊張感さえ見える。
名のある仏師でも、はたしてこれほどの物が作れようかと思うほど、見事な出来だった。
「どこぞの仏師が彫ったのであろう」
ミコには、仏師が何を意味するかはわかっていないだろう。
それでもイダテンが作ったのではないと言われていることが分かったようだ。
唇を尖らせて忠信に抗弁する。
「ちがうもん。イダテンがつくったんだよ。ミコはみてたんだもん」
「おお、その通りじゃ、わしも作ってもろうたぞ」
三郎が、懐から木彫りの馬を取り出した。
三寸はあるだろうか。「千里でも駆けそうであろう。このような馬が手に入れば、手柄もたてほうだいじゃ」
三郎が胸を張った。
自慢したくなるのも無理はない。
忠信は、われを忘れ、今にも動き出しそうな、その馬を食い入るように見つめた。「このようにしてはどうでしょう」
邸に戻ると姫が提案した。
「隆家様の元におられる工藤様は、かつて木工助という役職を得たおりに名字を変えられたと聞いています。工藤様に口添えいただければ、名のある工匠のもとで修行できるのではありませんか」
「駄目でしょうな」
忠信の即答に姫が驚きの表情を見せる。
「皆があれほど驚くものが作れてもですか?」
「その才能を目の当たりにした宮大工でさえ、鬼の弟子など持てぬ、と答えるのですから」
世情にうとい姫といえど、忠信の言っていることは理解できたようだ。
それでも、「まあ」と、言いながら姫は眉を寄せ、唇を尖らせた。
ミコの真似だ。
たしなめはしたが、これも、忠信が放任してきた結果である。
「では、こうしましょう」
面白いいたずらでも思いついたように姫が目じりを下げ、扇で口元を隠した。
それを見た忠信は、次の言葉を待たずに、「いけません」と答えた。
*
ぱちん、ぱちんと音がする。
左手に握った扇が音を立てていた。
無意識のうちに開閉していたようだ。
大人気ないと言われても仕方がない。
おそらく苦虫を噛み潰したかのような表情になっているだろう。細工をほどこした漆塗りの豪奢な碁盤に視線を戻す。
整地をするまでもない。
黒を譲られたときに、いやな予感はしたのだ。
「わたしの勝ちですね」
姫が満面の笑みを浮かべていた。
「謀りましたな」
「ずるはしておりませんよ」
確かにずるではない。
だが、自分の力を隠していた。
「武士(もののふ)である、じいは約束を守ってくれると信じています」
姫の言いたいことはわかる。
世の中には読み書きや算術の出来ない者が大勢いる。
武士でさえ例外ではない。
童たちに、そのような場を作ってやるのは良いことだ。
だが、ささらが姫、自らが教えるとなると話は別だ。
しかも、こたびの提言は、イダテンが独学でも建築を学べるようにということから始まっている。
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確かに、習い事をしている様子はない。 |
確かに、習い事をしている様子はない。
暮らしに余裕がある武士の子は七歳頃から十三歳頃まで寺に預けられて漢字、和歌などを学ぶのだという。
「兄者は備後の安那実秀様のもとで働くことになっておったが、そこへ向かう途中で行方をくらませた。以来、生死も分からぬままじゃ。ならば、わしが、おかあや先祖の期待に応えねばなるまい。武士としての腕を磨くが出世の糸口よ」
生き方は、それぞれだ。
ましてや相手は人である。
にもかかわらず言葉が口をついて出た。
「算術や文字の読み書きは、習っておいた方がよかろう」
おばばは、毛皮の相場も算術もわからず騙された。叶わぬ望みだが、美しい建築物を建てるには算術も必要に違いない。
書物をあたるなら読み書きも必要だろう。顯赫植髮
その思いが口に出た。
「そうじゃな、証文も読めぬから騙される。算術もできねば騙されよう。おまえが言うなら間違いあるまい……面倒そうじゃが、やってみるかのう」
三郎は、意外なほどあっさりと受け入れた。
そして、あぐらをかいたイダテンの足の上に頭をおいて、すやすやと眠るミコに目をやった。
ミコの髪の毛はつむじの上で括られている。
イダテンの真似をしているのだ。
イダテンが、この髪型にしているのには訳がある。
髪の毛を括った布の下に鬼の力を封じる呪符を挟み込んだのだ。
まとわりついてくるミコに、うっかりケガをさせてしまわぬようにと。
この呪符を見つけた時は困惑した。
母は、なぜこのようなものを残したのかと。
それでも形見として持ち歩いていた。
留守の間に家を荒らされたことがあるからだ。
母は、このような時が訪れると予想したのだろうか。
とはいえ、このままでは、ミコも三郎と同じ目に合うだろう。
自分がここにいることで、三郎たちに迷惑がかかる。「出世すれば、ミコを嫁にやる時も立派な衣装と嫁入り道具を持たせることができよう……ミコは、わしの本当の妹ではないのじゃ。おかあの妹の子での。ミコのおかあは、一年ほど前に、はやり病で死んだ……おとうは、ろくでなしでな」
それで引き取ったのか。
そのろくでなしが誰であるかも見当がついた。
三郎の父が十年前に死んだことは老臣から聞いていたが、新たな連れ合いとの間の子だろうと思っていた。
三郎がこうしていられるのも春までだという。
今でも水汲みや畑仕事を手伝っているが、貧しい者は幼いうちから大人にまじって働かなければならない。
ここで目覚めた日の水汲みを思い出した。
三郎やそれより幼い童には、さぞかし辛かろうと。
水から少し離れた所に支点を置き水を汲み上げる、跳ね釣瓶という造作物であれば作ってやることはできる。
だが、桶をおろすときに力がいる。童には使いこなせまい。
――そこまで考えて三郎のかたわらに転がっている独楽が目に入った。
ミコが教えろと言うので持ってきたのだ。
結局、ミコには、回すことができなかったが。
じっと見つめるイダテンの様子が気になるのだろう。
三郎が声をかけてきた。
「どうした?」
「細工をしても良いか?」
急かすように問いかけた。
閃いたのだ。
うまくいきそうな予感がする。
三郎は、いつもと様子の違うイダテンに戸惑いながらも、これか、と独楽を差し出した。
「かまわんぞ。これは、おまえにやったものじゃ」矢を入れた筒袋の横にある物入れから小さなノミを取り出した。
研ぎはしっかりとかけられている。
「何でも入っておるな」
という、三郎の言葉を聞きながら、眠っているミコの頭に手を回した。
身内のおばばを別にすれば人と触れ合うことなど一度もなかった。
ましてや抱き上げることがあろうとは想像すらできなかった。
そっと横の草地に降ろして取り掛かった。
「なんじゃ、これは? なにかの見立か?」
出来上がったものを見て、三郎が我慢できずに聞いてきた。
「丸太と軸になる丈夫な木は手に入るか? できればがよい。丸太は切れ端でかまわぬ」
三郎は目を輝かせた。
「これの大きなものを作るのじゃな。どれぐらいの大きさじゃ」
一尺は欲しいと、両手で大きさを示す。
三郎は、
|
その答えにあわてたように三郎がすり寄っ |
その答えにあわてたように三郎がすり寄ってきて袖を掴んだ。
「まてまて、イダテン。もしも、この薬湯で、おかあの頑固な頭痛が治るなら、これで一儲けできようぞ。ここはひとつ、秘伝ということに……」
「三郎!」
頭痛で苦しんでいるとは思えないヨシの声が家中に響き渡った。隈笹の生い茂る獣道から抜け出て、竹の束を肩に、暖かい木漏れ日の降り注ぐ斜面を下る。
径に出ると、言い争う声が聞こえてきた。
十間ほど先、三叉路の道祖神の前に、その主たちの姿があった。
「理屈は良い」
頭ひとつ抜け出している童が答えた。
三郎が言っていた力自慢の喜八郎だろう。
その隣の三郎より小柄な童が、足が速いという九郎か。【香港植髮價錢】小心平價陷阱! | 方格子
「おまえのためを思うて言うておるのじゃ。このままというなら、袂を分かつことになろう」
三郎が反論する。
「相手が何者であろうとも、その力量を認め、受け入れる度量も必要ではないか。武門に生まれたのであればなおさらじゃ。」
「人であれば、つき合いもできよう。やつは鬼の子じゃ。あの暗い目を見ればわかろう。なにをしでかすかわからぬぞ」
「イダテンがなにをしたというのだ。人に害をなしたことは一度もないではないか。むしろ、腕も立てば知恵もある。つきおうて見ればすぐにわかろう」
喜八郎と九郎は目くばせをして答えた。
「どうしても、おまえが、鬼の子と組むというなら、われらとの縁もこれまでじゃ」
「奉納祭の競弓の仲間は、ほかを当たるが良い」
そう言い捨てて山道を下って行った。
三郎は二人を追うでもなく、その場に立ちつくしている。
イダテンの足元を影が横切った。今日は風もなく暖かい。
東の空には、うろこ雲が見える。
海が見渡せる弓場近くのゆるやかな斜面に草笛の音が響く。
三郎が枯れ草の上に寝そべりながら笹の葉を唇に当てていた。
イダテンは腰こそ落としているが寝そべってはいない。
用心のためだ。
だが、いつもは腰に手挟む手斧はミコが刃に触れてケガをしないようにと筒袋の横の物入れに差し込んだ。
三郎が草笛を吹き終わったところで、
「おれは、奉納試合にはでぬぞ」
と、伝えた。
三郎は一瞬、なにを言われたのか分からぬ様子だったが、すぐに目を閉じて、ため息をついた。
「そうか、見られておったか……」
体を起こし、草笛を前方に投げすてた。
「すまぬのう。わしは弁が立たぬで。やつらも決して悪い奴ではないのじゃ」
三郎の話によると、国司の邸を囲む郭には、家族を支える働き手をなくした者たちが多く引き取られているという。
喜八郎らより年長の者は、十年前に宗我部に討たれた武士や郎党たちの子だと。
きれいごとばかりで引き取ったのではないようだ。
この地に地盤を持たない新任国司が、忠実な下部を抱えようと老臣の助言を受け入れたのだ。引き取られた者たちは自立できるまでは邸の仕事や直轄領で働くことになる。
国司にとっても利益は大きい。
直轄領の租税は免除されているという。
「やつらは、お前の力が人並みはずれておるので怖いのだ。人というのは弱いものでの、強いものにあこがれるか、でなければ怖がるかじゃ。わしは……わしは、うらやましいのだ。お前のように強くなりたいのだ」
拳を握りしめ、顔を朱に染めた三郎が挑むように話し始めた。
「一年もの間、たった一人で生きてきたと聞いたが、それはまことか? いまだに信じられぬのだ。どうしたら、そのようなことができるのだ……わしはお前のようになりたいのだ。そのために、お前のことをもっと知りたいのだ。たとえ、他人から魚の糞のようだとそしられようとも、お前のそばにいたいのだ……」
三郎の話は終らなかった。
三郎は、勘違いしている。
おれは強くなどない。
鬼の血をひいたゆえ、人より速く走ることができ、人より力があるというだけだ。
たった、一人で生きてきたと言うが、望んでそうしたわけではない。
そうするしかなかったのだ。
なにより、おばばが死んだ時、おれは正直、ほっとしたのだ。
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老臣にうながされて、白砂が一面に敷き詰め |
老臣にうながされて、白砂が一面に敷き詰められている南の庭にでた。
夏であれば照り返しが、さぞかし眩しいに違いない。
一度、山の上から見たことがある。
この上に舞台を作り、宴が行われていた。
楽の音が美しい庭と舞を引き立て、異界に迷い込んだような錯覚におちいったものだ。
その庭にそぐわぬ話が待っていた。老臣が切り出した。
「弔いをあげさせてもらいたいというのは本心からじゃ……わしには、負い目がある……わしは、おぬしやおぬしのおばば様の苦境に気づいておった。見殺しにしたと言われても返す言葉がない……それをまず、詫びねばならぬ」
イダテンに向き直った老臣が、この通りじゃ、と言って白髪頭を下げた。【男士脫髮】認識脫髮先兆及成因做好脫髮改善! | 方格子
人が自分に頭を下げることがあろうとは思いもよらなかった。
「そのような男の話など聞きたくもなかろうが……」
と、老臣は居住まいを正した。
鬼を相手に、聞かせてよいのかという内容だった。
それだけの見返りを要求するつもりだろう。
「わが一族は先祖代々、この地で生きてきた。が、わしが生まれた頃には家も没落しておってのう。わしはといえば学問も礼儀も知らぬ、腕だけが自慢の荒くれ武者じゃ」
老臣は、白い髭をなでながら庭を見つめた。
「……わしは、死に損ねたのじゃ。当時仕えておった主人が病を理由に、船越の郷司、船越満仲様の談合に参加しなかったがゆえにな」
十年ほど前のことじゃ、と老臣が続けた。「主人が出向けば、わしも同行しておったはずじゃ。腰が引けただけなら救いもある。宗我部国親に、その談合を知らせたのが、その主人だったのだ。でなければ、船越の後任の郷司に推されることはなかったであろう……わしの代わりに何も知らぬ息子が討ち死にした……主人の急な病……仮病を満仲様に伝えに出向いたがために」
イダテンの父も、同じ頃、濡れ衣を着せられ殺された。
「……わしは主従の契りを解消した」
老臣の握る扇子が、きしんだ音を立てた。
「阿岐国の領主は皆、国親の顔色を伺うようになった。国親に息子を殺されたわしを雇おうという領主などどこにもいなかった。息子の嫁、ヨシは子を宿しておった。連れあいにも苦労をかけた。百姓仕事もろくに知らぬ、雇われ侍じゃ。今の主人である阿岐権守様に拾われねば、われらは、とうに、どこかで野たれ死んでおったであろうよ――仕えてすぐに姫様がお生まれになった。ヨシが三郎を生んだばかりということもあり乳母として声がかかった……乳を与えただけで高い報酬はもらえぬと自ら厨女に転じたが」
老臣は続けた。
「姫様は、摂関家嫡子である主人の一の姫としてお生まれになった。本来ならば、われらのような一族から乳母が出るなどありえないこと。田舎のことゆえ、家柄にふさわしい者が見つからぬという幸運に恵まれたこともあった。だが、ヨシが選ばれたには、他にも理由がある……貴族や役人のおなごでは信用できなかったのじゃ」
政争に敗れたとは聞いていたが、それほどの遺恨を残していたのか。「赤子の命を奪うなどたやすきこと――出産直後に悪霊や物の怪にとりつかれた――そう見せかけるなど造作もない……わしでも、ひとつやふたつは思いつくでな。貧しい百姓は、そうやって生まれたばかりの赤子を間引くのじゃ」
初めて聞く話だった。
それで間引かれるというなら、イダテンこそ間引かれてもおかしくなかった。
おばばにしてみれば、イダテンは疫病神以外の何ものでもなかっただろう。
「……よちよち歩きの姫様がなついてくださってのう。わしが言うのも口幅ったいが、姫様は、見目形は言うまでもなく、書や歌、楽に加え漢文の才にも優れ、さらには誰にでも好かれるお人柄じゃ。姫様に
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イダテンも空を見上げた。 |
イダテンも空を見上げた。
澄み渡った空はどこまでも青い。
「さぞかし痛かろうな」
「……おお、イダテン。面白いことを言うではないか」
三郎は、驚いたようにイダテンを見る。
「わしは耐えられるぞ。おかあの平手打ちに比べれば、どうということもあるまい」
誰も問うていないのに三郎は続けた。
「わしは嫁にするなら優しいおなごがよいのう。兄者のように高望みはせぬゆえ」その鮮やかな緑色の瞳に魅入られそうになる。
まるで光り輝く珠玉のようだ。
加えて、その漆黒の艶やかでなめらかな毛並みにみとれてしまう。高科技育髮:激光生髮帽還是機械人植髮?生髮帽副作用分析
周りから見れば、自分も、この獣のように珍しい存在なのだろうが。
その獣を抱いていた姫が「猫」です、と言った。
だが、同じものには見えなかった。
顔も全身もほっそりして、毛は短く尾がとびぬけて長い。目の色も違う。
その疑問に気付いたのだろう。老臣が補足する。
「唐から渡ってきた猫じゃ。宮中から出たのはこの猫が二匹目と聞いておる」
書物によると、すでに唐の国はなく、宋という国になっているようだが、この国では海の向こうの大国のことをいまだに唐と呼んでいる。
姫が、その唐猫に目をやった。
「子が生まれたというので、貰い受けられるよう、伯母が口添えしてくれたのです」
「そいつは、食えるのか」
人は犬も食う。
姫は、きょとんとした表情になった。
真顔で尋ねるイダテンの言葉の意味が咀嚼できなかったようだ。
老臣が面白そうに笑った。
「おまえは自分が飼っている鷹を食うまい。おなじことじゃ」
やはり自分を見張らせていたのはこの老臣だったようだ。
だが、飼っているつもりはない。飛天は自分で餌を獲る。「名は、なんというのだ」
食わぬというなら、こいつにも名をつけたのだろう。
猫は、人の言葉を理解しているかのように、姫の顔を見上げる。
応えがないとわかると姫の胸から這い出して、とことこと几帳の向こうに消えていった。
姫が、ため息をついた。
「早く決めてやらねばと思いながら、決めかねているのです……これほど難しいものとは思いませんでした」
姫が話し終える前に猫が帰ってきた。
口に鼠を咥えている。それを、そっとイダテンの膝もとに置いた。
腰をおろすと、どうだとばかりにイダテンを見上げた。
こいつも餌を自分で獲れるようだ。
ならば、人に飼われているとは思っていないだろう。
「鼠を獲るので、重宝しておる」
老臣の言葉には自慢げな響きがあった。
イダテンは、猫に尋ねた。
「おれにくれるというか?」
「獲ってきたことを褒められたいのだ」
老臣が、答えた。
「気にせずとも良い。おまえが食え」
猫は、返事でもするかのように小さく鳴いて、その黒い頭と体をイダテンの膝に摺り寄せた。
「……気に入られたものよ。まだ、姫様以外には懐いておらぬというのに」
「イダテンには人を惹きつける力があるのでしょう」
姫が嬉しげに口もとをほころばせた。
「おれが獣に近いからであろう」
その言葉に姫は困惑した様子を見せたが、イダテンは取り合わなかった。
人の言葉には裏がある。
獣のほうがよほど正直だ。気がつくと、その艶やかな漆黒の体に思わず触れていた。
「なんとも美しい毛並だ。夜を思わせる」
「そのような名をつけたいのです」
名前といえば、と姫は続けた。
「あなたに聞きたいと思っていたのです。イダテンと言う名前の由来か、意味を聞いていますか」
問いの意図がわからない。
「意味などあるまい」
姫は、黙って文机に向かい、紙に「韋駄天」と書いた。
繊細で流れるように美しい字だった。
「このように書くのではありませんか?」
そのとおりだった。
否定しないイダテンを見て、姫は話を続けた。
「足の速い神様と同じ名前です」
ばかなことを――鬼の子に神の名などつけるはずがない。
「おそらく、お父様も足が速かったのでしょう」
姫が、ひたと見つめてきた。
「人を凌駕する力を持っている者は、であれば『神』と呼ばれ、われていたでしょう」
何を言っているのだ。
てておいて思うままに操ろうというのか。
「わたしは、あなたの噂を耳にするたびに、この歌を思い出すのです」
白扇に書かれた歌を見せられた。
紙を折って作った籠に書かれていた文字だった。
読めぬと、断ったうえで訊いた。
「自分で作ったのか?」
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イダテンが担ぎ込まれたときに身に着けていた |
イダテンが担ぎ込まれたときに身に着けていた衣が、コウゾやシナの皮の繊維から作られた生地だったことを思い出したのだ。
百姓と変わらぬ暮らしとはいえ、三郎たちは、そのようなものは一度も着たことがない。
「何を植えるつもりだ」
珍しくイダテンの方から訊いてきた。
妙に嬉しくなり鼻の穴をふくらませて答えた。
「おお……何が良いかのう」
「お花がいい」
ミコが、嬉しげに言う。
「そんなものでは腹はふくれぬ」
「お花がいいの!」植髮免剃全頭? 詳看FUT / FUE / Artas植髮過程分別 - 方格子
ミコが頬をふくらませ、小さなこぶしで叩いてきたが三郎は取り合わなかった。
「畑を増やしても、この場所では水を運ぶのが大変じゃからのう。山から栗の苗でも取ってくるか。収穫は少々先にはなるが面倒はなかろう」
「水は引けばよい。この先に小さな沢があろう」
予想もしなかった答えが返ってきた。
「あるにはあるが……流れを変えるは厳しかろう……いや、おまえなら、出来るやもしれぬが、流れを変えて、すべてを奪えば下流で水を使っている者とのいさかいになる」
「必要なときだけ引けばよいのだ」イダテンが指さした先を見ると、畑の上にある斜面の木々の間を竹が長々と這っているのが見える。
この辺りに竹藪はない。
イダテンの顔を見つめるが、説明する気はないらしい。
まさかと思いながらも、斜面を駆け登る。
イダテンと会ってから、ずいぶんと走らされている気がする。
縦に割って節をくりぬいた竹が延々と繋がっていた。
先をたどりながら目を見張った。
高低差を考えて木の根元を選び、細く割った竹の杭で、ずれぬように補強してあった。
「兄上。これ、なに?」
息を切らせて登ってきたミコが問いかけてきたが、かまってなどいられなかった。
繋ぎ目を重ね、水が漏れないように工夫がしてある。
高低差の大きい場所や大きく曲がる場所では様々な工夫が見られた。
無駄なく下まで届けるためだろう。
さらにたどっていくと、やがて、小さな沢に出た。
沢の流れから外れたところに水の湧く場所がある。
その周りの青々とした苔の上を紅葉や楓、櫟などの落ち葉が色鮮やかに彩っていた。
竹もそこで終わっていた。
イダテンがミコを連れて近づいてきた。
「……一人で作ったのか?」
「この流れに、その竿を差し込めば畑まで届く。畑の手前には水を暖かくするための池も掘った」問いとは違う答えが返ってきたが、手伝う者などいるはずもない。
「試してみたか?」
無表情にうなずくイダテンを見て、三郎は悔しさにうなった。
「そういうときはのう、イダテン……まずは、わしを呼んでこういうのじゃ……『三郎、面白いことを考えたで、手伝え』とな……ああ、悔しいのう、悔しいのう」
と、声をあげた。
「それが、人との付き合いというものじゃ。友というものじゃぞ」
三郎が地団太をふんでいるうちに、ミコが、よいしょとばかりに流れに竿を差しいれた。
イダテンが、その一竿と指差した竹だ。
それを目にした三郎は、「ああっ!」と悲鳴のような声をあげた。
水は軽やかな音を立て、節をくりぬいた竹の溝を伝って畑のある方向に下って行った。晴れ渡った空を仰ぐ。
飛天が翼を広げ、大きく弧を描いていた。
鍬をかつぎ、東の方向の御山荘山の稜線と南側に位置する島々を眺めながら径を下りる。
耳を澄ますとヒヨドリのさえずりが聞こえてきた。
三郎の背負い籠の中の大豆のさやが、歩を進めるたびにからからと音を立てる。
ミコが径を外れ、とげのあるオナモミの実を見つけ、ひっつきむしと言いながら、三郎とイダテンに投げつける。
収穫を手伝えただけでなく、自分が沢に竹を差しこんだことで畑に水が流れ込んだ興奮もあるのだろう。
嬉々として動きまわっている。
「兄上、みて! アキグミだよ」
繁みの奥から枝ごと折り取った赤い実を、かかげて見せるミコに目もやらず、
「おお、熟しておれば随分と甘かろう」
と、返した。
ミコが枝からたれた実を上にして口を開けた、
「よせ! それはアキグミではない」
イダテンは思わず叫んだ。
ミコは驚き、その実を落とした。
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「ほかにあるまい」 |
「ほかにあるまい」
見よう見まねで作った。矢羽も、狩りでしとめた鳶(とび)のものだ。
「そんな矢では当たらぬぞ」
「当たらぬ、では、飢え死にする」
イダテンの答えを三郎は鼻で笑った。
「慢心ではないか? その矢では、名手といえど、五本に一本も当たるまい。一本でも当たったら、今日のわしの夕餉はおまえにやろう」
「そのような話にはのれん」
三郎は、にやりと笑った。
「では、こうしよう。勝ったものが菜をもらうというのはどうじゃ? 菜を一度抜くぐらいなら支障はあるまい」
食べ物に固執するたちのようだ。【植髮】拆解植髮失敗原因增加植髮成功率! | 方格子
面倒なので受けることにした。
「わしは同い年の者との競弓では負けたことがないのじゃ。そもそも、この距離を飛ばせる者も珍しい」
三郎も自信ありげに自分の弓を突きだした。
矢ごとに癖はあるが、それは熟知している。
ぶれを抑えるための工夫も怠っていない。両足を踏み開き、矢をつがえ、弦をひき、気負いなく一射目を放つ。
三郎が目を見張った。
「なんという速さじゃ。たいした強弓じゃの」
イダテンは一射目の結果を待たず、続けて二射、三射と放った。
そのすべてが三つの巻藁の中心に的中した。
「あたり? あたり?」
ミコが問いかけるが、三郎の目は、的の巻藁に、くぎ付けとなっていた。
「おおっ……」
「ねえ、ねえ」
ミコに腕を掴まれ、ようやくわれに返る。
「忠信様並みの腕前じゃな――いや、忠信様より上かもしれぬ。近頃は目が悪うなって、的が見えぬとこぼしておられたで」
「すごい、すごい、ただのぶー」
ミコが手を叩いてはしゃいでいる。
意味は分かっていないだろう。
「ならば、次は、あの上にある板を狙ってみろ。わかるか、あの縄からぶら下がっているやつだ。一辺が五寸しかない。」
巻藁より十間は遠く、六丈は高いだろう。
風に揺られた五枚の的が小さく揺れている。
「ひとつでも当たれば……」
三郎の言葉が終らぬうちに矢を放ち、背の筒袋の矢に次々と手を伸ばした。
甲高い音がここまで届く。
すべて的中した。
どれも、ほぼ真ん中だ。
五枚の的が矢をぶら下げたまま、ゆらゆらと揺れていた。「……信じられぬ。わしは夢でも見ているのか……そうじゃ、夢に違いない」
斜面の的に向かって三郎が歩き出した。
しばらくすると我慢できなくなったのか、全力で駆け出した。
三郎は感心していたが、驚くにはあたらない。
これぐらいの腕が無ければ獲物など狩れない。
獲物は留まってなどいないし、人ほどのろくはない。
「ねえ、ねえ、イダテン。ミコ、数かぞえられるんだよ」
ミコがイダテンの袖を引いて、風に揺れる的を見ながら指を折る。
「ひい、ふう、みい……ええっと、それから、えーっと、えーっと」
*
息を切らして灌木と枯草の生い茂る斜面を駆け上がる。
崩れ落ちそうな膝をなだめながら命中した板を仰ぎ見た。
――あやつ、一体何者じゃ。
いや、鬼の子だということは重々承知しておる。
だが、これはもはや神業ではないか。
あやつは本当に、ただの鬼なのか。
振り返ると、その鬼が弓を引いていた。
鏃は三郎に向いている。
思わず息を飲む。ミコは指をかぞえるのに夢中で気がついていない。
血の気が引いていく。
ひゅん、と音をたてて放たれた矢の音にミコもこちらを向いた。
矢は、三郎の頭上を遥かに越えて山の斜面の茂みに消え、鈍い音をたてる。
小さな物が転がり落ちて、途中の潅木に引っかかった。
三郎は震える足を叱咤し、斜面を駆け上がった。息を整え、それを手にすると、天に突き上げ振り回した。
毛並みの良いムジナだった。
「おまえがおると、食膳が豊かになりそうじゃのう!」
イダテンに聞こえるよう声を張りあげた。
「菜は、おまえのものじゃ!」
無愛想ではあるが、こいつといると面白い。
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その空間に使用人や職人、侍たちの住む長屋 |
その空間に使用人や職人、侍たちの住む長屋に加え、馬場や弓場を取り込んでいるのだ。
邸に至るまでの門は一直線に並んでいない。
日常を考えると不便極まりない作りだった。
敵が攻めてくるときの備えである。
唯一、牛車を直接、邸に着けるための橋が長者山側から伸びている。ただし、この橋もいざとなれば跳ね上げることができる。
つまり、外部からの侵入を阻む造りになっているのである。
これは、もはや砦である。
貴族である国司の住む邸ではない。
反乱から国司を守るため――表向きはそのようになっている。香港脫髮研社
この邸が完成したのは船越の郷司が謀反を企てたとされた直後だったからだ。
実際には、郡司であり、この地の実質上の支配者である宗我部国親が、自分が住むつもりで建てたのだ。
国司に任命されても貴族の多くは都を離れるのを嫌い、代官に任せて都にとどまるからだ。
しかも反乱騒ぎがあったばかりの地だ。
赴任してくる者などいるはずがないと高をくくっていた。
だが、予想外のことが起こった。
若くして内大臣まで登りつめながら、叔父との政争に敗れた男が国司として任命されたのだ。
先人の例を出すまでもなく、明らかな流罪である。
そのような男が都にとどまることは、謀反とみなされる。
それでも代々、この世の最高実力者を出し続けた家柄である。
国親にしてみれば、邸の提供は懐柔するための意味もあっただろう。
阿岐権守自身も二、三年もすれば恩赦で、長引いたとしても任期とされる四年で都に帰れると思っていたはずだ。わがもの顔で振舞っていた宗我部らにとっても、十年は予想外だったに違いない。
上空では飛天が舞っていた。
ユガケをつけた右腕を横に差しだし、指笛を吹く。
黄色い脚を伸ばし、飛天がイダテンのもとに降りてきた。
暗青灰色に覆われた美しい毛並み、そして輝くような黄色の眼。
自由に空を飛び、群れを作らず誇り高い。
自分も鷹に生まれたかったと幾度思ったことだろう。
翌日は、近くの森林に入って、うさぎを狩った。
人に比べて回復も早い。
右腕も肩までは上がるようになった。
木漏れ日の差し込む陽だまりに立ち、小さな角笛を口に咥える。
竜笛と違い、大きく切れ込みを入れてある。
父の形見の中にあったものだ。
吹いても人の耳には聞こえない。
しばらくすると獣道から灰褐色の老いた獣が二匹現れた。
犬に似ているが、体は大きく痩身で足が長い。
狼だった。
一匹の牙はひときわ大きく喉元が白い。
もう一匹は暗褐色だった。
名を呼んだことは無いが、雪牙、帳(とばり)と名づけていた。
狼たちは、イダテンが仕留めたうさぎを食べ終えると満足そうに帰っていった。
近頃では自分たちで餌をとることも難しくなっているようだ。
狼は群れで狩りをする。
老いた二匹だけでは難しかろう。
住処を移す決断が遅れた理由の一つでもある。
二匹には秘めた想いがあるはずだ。が、それを成し遂げることはできぬだろう。
それでも、想いを持てることがうらやましかった。
それが、生きるということなのだろう。
――帰り道で視線に気がついた。
外に出た時に見張りがついていることには昨日から気がついていた。
とはいえ、行く手を遮るそぶりもない。
見守っていると言っても差し支えないほどである。
どうやら、国司の邸に近づかねば問題はないようだ。
ならばと開き直って、祠や神社、寺などを見て回ろうと考えた。
むろん、騒ぎにならぬよう、ひとけの無いときに限られるが。
イダテンは神も仏も信じてはいない。
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んでありましたのに」 「ほんに |
んでありましたのに」 「ほんに。いつの間にやらがなくなって、すっきりと致しました」 古沍とお菜津も辺りを見回し、随分と片付いたものだと感心したように頷いた。 信長や濃姫にとっては七回忌にあたるこの年。 胡蝶は両親を供養する為に、妙心寺で七回忌法要を執り行うべく、古沍たちを伴って幾度目かのを果たしていた。 しかし一周忌の折のように、寺の広い本堂で側室たちを迎えて行う訳ではなく、信忠と慈徳院のいる大雲院で、 ごく親しい者たちだけが集まって行う、やかな法要にしようと、思いがけずも報春院の発案で決められたのである。 胡蝶はその妙心寺へ向かう道すがら、ここ本能寺へ立ち寄り、半ばで死した父と母、 そして蘭丸を供養する為に、花をけにやって来たのである。 上洛した時は必ずそうするように心がけている、ある種の胡蝶の習慣のようなものであった。 本能寺は謀反が起こった折になどは焼け落ちてしまったが、今では逃げ出していた僧侶たちも呼び戻され、寺は墓所として扱われている。植髮 けれど胡蝶は、そんな境内へは決して入らず、いつも門前に花をえて三人の供養に尽くした。 初めて本能寺を訪れ、変事の後の境内を目にした時に、胡蝶の心が急に乱れ、狂乱しかけた過去があったからだ。 焼け落ちた御堂や、煤で真っ黒になったの壁を見る内に ──どんなに熱かったことだろう…、どんなに苦しかったことだろう… ──きっと息も吸えぬ程だったに違いない… 寺で死に絶えた三人や、家臣たちのことを考えると、どうしても平静を保つことが出来なかったのである。 今でも門の前に来るのがやっとで、胡蝶は古沍とお菜津から花束を預かると 「…父上様、母上様、蘭丸様。今年も参りましたよ」 囁くように告げながら、門前の端に花を供えて、片手で合掌した。 古沍とお菜津もその後ろで手を合わせ、濃姫たちの冥福を祈った。 すると、本能寺の前を通りかかった一人の男が 「──おい、あんたら、そこで何をしておるのや!?」 しげに眉を寄せながら、胡蝶たちの方へ歩み寄ってきた。 どうやら町民らしいが、古沍とお菜津は警戒して、主人を守るように一歩前へ出た。 男は三人の姿を見るなり「ははーん」という顔をして 「お前ら、さては逆賊の縁のやな!織田様をなった謀反人らの供養に参ったのやろ!? 時折おるのや、残党狩りも恐れぬ、お前らのようなするような目で胡蝶たちを見据えた。 すると古沍は、キッと一重を見張ると 「この無礼者!!」 更に一歩前へ出て、その男を怒鳴り付けた。 「こちらにおわされるのは、その織田信長公のご正室であらせられた、養華院様にございますぞ!」 古沍にまれ、男はぎょっとなった。 「…お、織田様のご正室っ!?」 男は驚愕し、慌ててその場にひれ伏すと 「お、お許し下さいませ!! 飛んでもない勘違いを…! に、平にご容赦下さいませ!!」 額を地にこすり付けながら、声の限りに謝した。 しかし古沍は尚も眉間にを刻んで 「ええい、許せぬ!養華院様に無礼を働いたとあれば、織田家が黙ってはおりませぬぞ!」 覚悟しておきやれ、とするように叫んだ。 男が脅えながらも、平身低頭し続けていると 「やめよ古沍──もう良い」 憤然となっている侍女を
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真っ直ぐ伸びる廊下を挟んで右手に部屋々が、 |
真っ直ぐ伸びる廊下を挟んで右手に部屋々が、左手には、先ほど天主から見たあの前庭が広がっている。
既に胡蝶の姿は前庭にはなかったが、もはや蘭丸はそんなことなど気にしてはいなかった。
「いったいどういう……、この空間は何なのだ…?」
隠し部屋、密室とも言うべき謎の空間を前にして、ただだだ当惑していた。【香港植髮價錢】小心平價陷阱! | 方格子
蘭丸はそのままふらっと足を進めると、襖が開け放たれた奥の部屋に、ふと人の気配を感じた。
『──誰かいるのか?もしや、先ほどの娘では…』
恐る恐る室内を覗いてみると、雅やかな小袖を纏った胡蝶が、部屋の入口に背を向けるような形で、刺繍の続きをしていた。
胡蝶の衣装を見て“ やはり先ほどの娘!” と、一歩足を踏み出した途端、ギィ…と廊下の床が鳴った。
蘭丸はしまったと思い、反射的に一歩後ずさる。
「──お菜津、帰ったのですか?」
「……」
「先ほど出かけたばかりじゃと申すのに。忘れ物でもしたのですか?」
「……」
「お菜津?」
声が返って来ないことを不思議に思い、胡蝶は手を止めて、ゆっくりと振り返った。
「 ! 」
思わず胡蝶は声にならぬ悲鳴を発し、先程の蘭丸と同じように後ずさった。
その瞬間、胡蝶の小袖の裾が軽く捲れ、その足元がになる。
『…何と…!この娘、足が片方── 』
と思うや否や、胡蝶の左袖がぺしゃんこで、内に何も通っていないことに気が付いた。
足だけでなく、片腕もないとは…。
常に冷静な蘭丸も、思わず目を丸くする。
そんな彼の目が次に捉えたのは、相手の相貌だった。
実に御台所と似ている──。
胡蝶の面差しが濃姫にそっくりなことに、蘭丸は驚いた。
だが、似ているのは濃姫ばかりにではない。
自分がよく知っているあの人の面影もあるのだ。
豪華な調度品で飾られた室内や、相手の贅沢なからしても、目の前の娘が鄭重な扱いを受けてきたことが分かる。い蘭丸は“ もしや…” と思ったが、その予想を口にすることは出来なかった。
まずもって、そんなはずがないからである。
蘭丸は、これまでになかった出来事にえる胡蝶に、心持ち近付くと
「…あなたは、誰なのです…?」
動揺を必死に抑えながら、小さくねた。
しかし、胡蝶は怯えた目で蘭丸を見つめるばかりで、答えようとしない。
「お教え下され、あなたはいったい──」
蘭丸が再度訊ねかけた時、彼の背に、ぬっと黒い影が迫った。
気配を感じて蘭丸が振り返りかけた瞬間
「…ッ!」
彼は目の前が真っ白になり、ドッと音を立ててその場に倒れたのである。
胡蝶は急な事態に驚きながらも、どこか救われたような思いで、ひたと入口を見つめた。
「……父上様…」
「──」
縁側に降り注ぐ春のを背に、信長は、足元に倒れる蘭丸をめしい表情で見下ろしていた。
倒れた蘭丸が意識を取り戻したのは、それから一刻(約2時間)も後のことだった。
急所を突かれたのか、首筋に強い痛みを感じつつ、蘭丸はそっと両眼を開いてゆく。
ぼんやりとしたその目にまず映ったのは暗闇だった。
どこからか僅かな薄灯りが漏れているようであったが、辺りは夜のように真っ暗で、そして静かであった。
少しして、目が暗闇に慣れてくると、ほんの二メートルほど先に、大きな柵のような物が見えてきた。
それが牢屋の木格子であると気付くまで、蘭丸は一分とかからなかった。
今の蘭丸自身が、まるで囚人同様に、薄汚れた
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好きな物が関わると、さすがの胡蝶も都合の |
好きな物が関わると、さすがの胡蝶も都合の良い考えばかりが膨らみ、どうにも抑え切れなかった。
猫を撫でたら、すぐに縁まで戻れば良い。
そう思った胡蝶は、そっと庭先へと進み出た。
人慣れしているのか、胡蝶が近付いて来ても、白猫は少しも警戒する様子がない。
胡蝶は杖でバランスを取りながら、猫の前にそっとしゃがみ込むと、その背を優しく撫でてやった。
何と可愛らしい。
世の中には、かような可愛らしい生き物が他にも沢山いるのであろうか…。
胡蝶はそんなことを考えながら、やわらかな春の陽射しの中、時を忘れてその猫と戯れていた。
だからであろう。
「……いったい誰じゃ、あのおなごは…」【男士脫髮】認識脫髮先兆及成因做好脫髮改善! | 方格子
信長の羽織りを取りに戻った蘭丸が、天主閣の窓辺から、こちらの様子を見下ろしていたことなど、胡蝶は気付きもしなかったのである。
同じ頃、宴の場に赴いていたお菜津は
「何とも優美な──。桜も今を盛りと、あのように美しく咲き誇って」
宴の華やかさ、盛大さに圧倒されつつ、あてどもなく広場の周囲を歩き回っていた。
そんなお菜津の側を、濃姫の所用で、台所へ向かう途中のが通りかかった。
「まあ、お菜津殿。そなたも参られていたのですね」
「はい、本日は御台様からのお許しをいただきまして」
「左様であったか」
「古沍殿は今からどちらへ?」
「台所へ水菓子(果物)を取りに参る途中なのです。上様がご所望故、急いでご用意するようにとの、御台様のご命令で」
「御意にございましたか」
「お菜津殿も席へお着きなされませ。侍女たちは皆、あの隅に控えて──」
と、お菜津に席を教えようとした刹那、古沍の両眼がわっと広がった。
「…お、お菜津殿…。そなた、それは何じゃ!?」
「え?」
「そなたが、その手に握っている物じゃ!」
「手に……、…!?」
自分の手に目をやって、お菜津は仰天した。
何と、本来は仏間の扉にかけておくべきはずの錠前が、彼女の両の手にしっかりと握られていたのである。
お菜津は思わず“ しまった!” と思い、その満面を激しく歪めた。
後から宴に参じるお菜津の為に、朝から外されていた仏間の錠。
“ 出て来る時には必ず鍵をかけるように” と、齋の局からも念押しされていたのに……。
「も、申し訳ございませぬ!わ、私、宴のことで頭がいっぱいで、思わず──」
「言い訳はよい!それよりも、早よう戻って鍵を!誰かが御仏間に近付いたら一大事じゃ」
「そ、そうでございますね」
「早よう!」
「…はいッ!」
お菜津は冷や汗をかきつつ、脱兎の如く御殿へと駆けていった。
花見の宴で人がんど出払っていた奥御殿は、まるでがらんどうのようだった。
台所や溜のたちが幾人か残っていたが、奥向きの中で最も格調高い正室の御座所付近は、
彼女たちの身分では近寄ることも許されない為、濃姫の居室が並ぶ北側の一帯はほぼ無人であった。
そんな濃姫の御座所の廊下を、神妙な顔付きをした蘭丸が、時折辺りを警戒するような仕草をしながら、早足で進んでゆく。
静寂に包まれた長廊下を進み行き、やがて御仏間の前にやって来ると
『──確か、先程のおなごがいた庭は、この仏間の辺りであったはず』
蘭丸は、目の前の杉戸を睨み付けるように眺めた。
『なれど妙だ。仏間の横は全て納戸のはず。納戸の奥に前庭があるなど…』
天主の上から見た限りでは、普通の設計のように見えた正室御座所の一帯。
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